早いスタート→本質理解→応用力

 前回は「教えるということ」の本質を語りましたが、今回は小学5年生の割合の授業(と中学2年生の湿度の授業)から感じたことを紹介しようと思います。

 「割合」という単元は小学5年生で初めて学びます。中学生以上の方が「割合」と聞くと、すぐに「%」という単位が思い浮かぶと思いますが、この単元の導入部からいきなり「%」が登場するわけではありません。
 最初はこんな感じで始めるのです。

 @ A君は60点、B君は15点です。A君はB君の何倍でしょう?
 ここではもちろん 60÷15=4 で「4倍」という式と答えが出てきます。ここで確認しておくべきことは、「B君を基準(1)とした時にA君は(4)になる」というこの式の意味です。つまり「何倍?」と聞かれたら、必ず「基準」で割るわり算になるのです。

 A A君は60点、B君は15点です。B君はA君の何倍でしょう?
 今度は基準がA君になりました。よってA君の点数で割らなければなりませんから 15÷60=0.25 で「0.25倍」という答えになります。この辺りで、問題文中の「〜の」の部分が「基準」になることも見つけさせたいものです。

 B 次にこのパターンを数題練習します。A君10点でB君50点、A君4点でB君16点、A君21点でB君60点、(それぞれA君はB君の何倍?)のような例題を準備しておきます。生徒に「正しくやればできる」という達成感を味わわせるために、きちんと小数第二位くらいまでに割り切れる例題を考えておくことも大切です。

 C ここまできたら、上の例題の答えが順に「0.2倍」「0.25倍」「0.35倍」とすべて小数になることを指摘し、「基準を1にしたから小数になってしまう。基準を100にしたら小数にならなくてすむね」と言いながら初めて「%」の意味を伝えます。そして 0.2倍→20%、0.25倍→25%、0.35倍→35% になることを納得させるのです。

 D ここからようやく「倍→%」「%→倍」の練習をさせます。「%」が誕生した意味も説明せず、ただ機械的に練習させても生徒に応用力は付きません。

 E こうしておけば、この次に「80点の45%は?」と聞かれても、45%=0.45倍だから、この設問が「80点の0.45倍は?」と同内容であることが分かり、したがって 80×0.45 という式が作れるのです。まぁそれでも実際には自力でこれを考えられる生徒は少ないので、講師が手助けすることにはなるのですが、少なくとも@〜Dをしっかりやっておけば、Eの解説はすんなりと頭に入っていきます。

 ちなみに@〜Eで50分授業を3回分くらい充てますが、@では「2けたで割るわり算」、Aでは「小数のわり算」(ともに小学4年生で既習)ができていない生徒は確実に脱落します。だから前学年までの学習内容に穴がある生徒は集団授業に向かないし、なるべく早い段階で算数に本腰を入れてほしいのです。

 ところでこれと同じ週、中学2年生の理科の授業で「湿度」を扱いました。これも同じく「割合」に関するテーマですが、当然3週もかけるわけにはいかないので、湿度(%)を求める公式をこちらから呈示することになります。「湿度とは何か」を説明することはできても「割合とは何か」にまでは時間を割けないのです。結果として、わり算によって公式どおりに湿度を求めることはできるようにはなりますが、逆に「水蒸気12.8gの25%は?」という問いに「かけ算である」という判定を下すことができない生徒が出てきてしまいます。これは「理科」が分かっていないのではなく、「割合(小5内容)」が分かっていないということなのです。

 「水蒸気12.8gの25%は?」という問題に中学2年生が悩み、解説でかけ算であることを説明しても首をかしげている姿を見ながら、「今、小学5年生なら解けるのになぁ」と思いつつ、(全体の成績として中学2年生が小学5年生より劣っているわけでは決してないのに)やはり少しでも早いうちに(つまり本質理解をするだけの時間的余裕があるうちに)学び始めることって大事なことだなぁと実感しました。

                                        はなぶさ通信 第75号(平成21年2月1日発行)より

                                  

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