九九を覚えること
9月半ば頃になると、小学2年生に九九を教える時期になります。いやこれは「教える」というより「覚えさせる」という方が正しい表現でしょうか。実はこの「九九を覚える」という作業、小学生が初めてぶつかる算数の「壁」なのです。
常々私が言っているように、勉強とは必ず「苦しみ」を伴うもの。もちろん楽しい内容や興味をひく単元もあるでしょうが、ただひたすら覚えなくてはならない事項の方が多いことは明白です。そのことを初めて実感するのが、小学2年生の「九九覚え」なのです。
今年の2年生も、最初の5のだん・2のだんまでは新鮮さも手伝い、比較的すんなりと覚えられるのですが、3のだん・4のだんあたりから、少しずつ苦行の様相を呈してきます。そして6のだん・7のだんでそれはピークに達し、8のだん・9のだんはラストスパート、といった格好になります。中には「今までの算数は楽しかったのに、九九を覚えるのは嫌い」とはっきりと口にする生徒も現れ始めます。しかしそこで妥協しては教育者としては失格(だと私は思っています)! カードを使ったり、口に出して読んだり、逆から読んだり、タイムを計ったり、百マス電卓を使ったり、とバリエーションを変えてチャレンジさせたりはしますが、それでも結局、苦しみながらも暗唱するのは他でもない「生徒自身」なのです。
半月から1ヶ月ほど遅れて学校の授業でも九九が始まると、塾生は「学校では二度目だからとても早く覚えられたよ」と言ってくれますが、この言葉が聞かれる頃はすでに小学2年生は一歩成長した姿をしています。「5+4=9」のように、ただ目の前にある物(または自分の指)を使って考えればすぐに分かる問題だけではなく、勉強には苦しんで覚えないといけないこともあるんだなということを、小さいながらに知ってくれれば、それはまぎれもなく大きな進歩なのです。これからも(嫌われ役になろうとも)苦しいことを最後までやり通させる「頑固講師」になろうと思います。
何はともあれ、今年も九九の季節が終わりました。
はなぶさ通信 第71号(平成20年12月8日発行)より