第110回 糸魚川(新潟県糸魚川市)→名立(新潟県上越市)
平成19年12月17日 曇り時々雨 26.9q 6時間0分
荒々しい日本海、初体験!
前回のウォーキングがあまりにも激しいウォーキングだったので、今回の日本海沿いの旅は気楽に考えていました。どんなに大変なコースでも親不知・子不知ほどではないだろうと…。
まぁ確かにその通りなんですが、それでも今回のこのコースもそれほど「緩い」コースではありません。それは次のような話からも分かります。
この区間はJR西日本(東日本ではありません)の北陸本線が走っています。米原から始まる北陸本線の最後の区間です。その北陸本線、現在はこの区間のほとんどがトンネルの中です。親不知・子不知に勝るとも劣らない長い区間をトンネルで貫通し、そのトンネルの真ん中には筒石駅という有名な(誰にだ!?)地下秘境駅も存在します。そのような区間ですから、日本海に沿った沿岸部分の地形のすさまじさを想像できるというものです。
しかし親不知・子不知区間と異なるのは、歩く人間にとってはそれほど厳しい状況ではないということ。実は現在はトンネル内を走っている北陸本線は、その昔は海岸沿いをクネクネと走っていました。現在その旧線の敷地が久比岐(くびき)自転車・遊歩道として整備されており、糸魚川駅から1駅目の梶屋敷駅を過ぎた辺りから次回通過する有間川駅直前までの区間はそこを安全に歩くことができるのです。線路が敷かれていた細長い敷地は、サイクリングロード・遊歩道にするにはもってこいですよね(ただしトンネルも数多くあり、一人で歩くにはちょっと怖い場所もあります)。
今回のウォーキングは最初の駅である梶屋敷駅辺りからパラパラと雨が降ってきました。傘は持ってきていたのでとりあえずずぶ濡れになることはなかったのですが、このままこれほどの雨が続いたら今回のウォーキングは途中中止かなぁと思わせるほどに降ってきました。次の浦本駅に到着するまでに決行か中止かの決断をしなければ…。
しかし遊歩道に入ってからは雨は急にやみ、曇り空ではあるもののしっかりと歩けそうな様子になってきました。どんよりと黒い空に暗い日本海。これがイメージ通りの「冬の日本海」でしょう。あとは強風が吹いてきて波が荒々しくなってくれば、パーフェクト!! でもさっきの雨も静かな雨だったし、そこまで求めるのは無理かなぁ…。
浦本漁港は由緒正しき日本の漁港といったイメージです。人の気配の少ない寂れた海岸に、古びた何艘もの漁船。潮で真っ赤にさびたガレージ。早朝にはきっとここに多くの魚が揚げられ、漁師の方々の声が飛び交っていることでしょう。
ここを過ぎると遊歩道は少し高いところに上がり、日本海を眼下に見下ろす形になります。しかし遊歩道と日本海の間には国道8号線が走っているので、足下がすぐに日本海というロケーションではありません。トラックがはるか下方を走って行き、僕の歩いているこの遊歩道はまさに雲の上。
浦本の次に現れる集落は能生(のう)町。かつてはこの集落の中心にJR北陸本線の能生駅がありました。現在はトンネルを貫通する新線への切り替えにより、駅も山側の集落のはずれに移ってしまっています。しかし僕が歩いている遊歩道はもともと旧線の線路が敷いてあった場所ですから、僕も必然的に旧駅があった場所(つまり集落の中心部)を歩くことになります。
能生駅にはこんな伝説があります。その昔、北陸本線に初めて夜行特急が走った時のことです。夜行列車というものは、目的地に朝のちょうどいい時間に到着するために(早朝3時に到着してしまってもお客も困りますからね)途中駅でしばしの停車をして時間調整をします。深夜のことですから駅に夜行列車が停車していても客の乗降は行いません。ただただ駅に停車しているだけなのです。よって当然時刻表には「通過」として扱われ、発車時刻などは掲載されません。
しかし当時の国鉄は間違えて、時刻表に能生駅への到着時刻と発車時刻を掲載してしまったのです。能生町の町民はそれを見て「能生に夜行列車が停車するらしい。こんな港町もようやく特急停車駅として認められたのだ」と大喜び。列車運行初日の深夜に町民は能生駅に駆けつけ、初の特急停車を祝福しようということになりました。
もちろん残念ながら夜行特急はただ停車するだけですから、どんなに町民が待っていても乗客は一人も降りてきません。しかも真っ暗な駅構内に静かに列車が停車し、そのまましばらく停車してまた静かに発車してしまったのでした…。町民はみんな唖然! この事件が後日発覚すると、各紙新聞は「能生にはNO」というダジャレ混じりで報道しました。鉄道ファンの中では非常に有名な話です。
現在の北陸本線は能生駅を出るとすぐに11qを越える長大な頸城トンネルに入ります(というか能生駅の一部はすでにトンネル内にあります)。そしてこのトンネルの出口には2駅先の名立駅(こちらも一部はトンネル内です)が待ち構えています。つまりこの長大なトンネルの中に筒石駅が存在しているのです。新線への切り替えによりほとんどの駅はその立地を町の中心部から山側に移すことを余儀なくされたのですが、「駅が集落から離れてしまう」なんてのはまだ恵まれている方で、筒石駅だけは山の中に出来上がることになってしまったのです。
ホームは山の中にあっても、もちろん駅への出入り口と駅舎は地上にあります。というか山の中腹にあります。筒石集落からは延々と山道を登らなければなりません。そして駅舎からホームまではエレベータもエスカレータもなく、階段を歩いていくしかありません。その階段は途中で上りと下りそれぞれのホームへと分岐しており、改札から下りホームまでは290段176m、同じく上りホームまでは280段212mあります。駅舎とホームとの高低差は40m。地上駅舎とトンネル内ホームを結ぶ階段は途中まではトンネル工事の際に使われた斜坑跡を流用していて、ちょっとした探検気分を味わうこともできます。この路線を利用したらぜひ立ち寄ってみる価値があるでしょう(もちろん僕もこの駅で降りてみたことはあります)。
ウォーキングの方はこの線路とは関係なく、海沿いの遊歩道(旧線)を歩きます。運悪く(というよりようやくイメージ通りになってきたというべきでしょうか)風が急に強くなり、日本海の波も荒々しくなってきました。山の上の方に設置された風力発電機もものすごい勢いでクルクルと回転し、落ちてきそうで低所恐怖症の僕はものすごく怖い!!
筒石集落を過ぎるとまたまた寂しい遊歩道になり、糸魚川市から上越市に入ります。寂しい国道8号線の脇にポツンと「上越市」と書かれた標識が立っています。強風でこの標識もグラグラしています…。そしてこの少し手前がスタートからの2450qポスト。いよいよ2500qポストの一歩手前まで来ました。
それにしてもこの強風はただものじゃない。暴風という感じです。風は自分の後ろから吹いてきているので背中を押されるようになり、歩くのは多少楽になるのですが、でもやはり自分のペースで歩けないというのは疲れます。ちょうど下り坂を下っていると疲れるのと同じ感覚でしょう。
ようやく名立集落が見えてきた頃、いったんは止んでいた雨もまたまた降り出し、名立駅を目指して今回のウォーキングを終えることになりました。しかし名立駅も集落よりもかなり山に寄った所にあり、遊歩道からは1q弱くらい名立川リバーサイドウォークを楽しまなければなりませんでした。駅に着いた時には雨は再び止んでしまっていました…。しかし、名立駅は名立川の真上にあり、ホームから眼下に見える清流はそれだけで1つの絵になります。
次回は直江津まで日本海岸を歩き、とうとう日本海とお別れをして内陸に向かい始めます。