第112回 新井(新潟県妙高市)→黒姫(長野県上水内郡信濃町)

平成20年4月30日 快晴 28.6㎞ 6時間40分

中期石器時代に思いを馳せて

 前回、日本海にさよならを告げて、内陸方向に向かい始めました。新潟県は海に沿って非常に長い形をしていますが、かなり「細い」形なので、内陸方向に進むとすぐに隣県に入ってしまいます。僕の旅も、すでに今回、新潟県を脱出して長野県に入ってしまいます。

 この日は、親不知を歩いた第109回の旅以来、久しぶりに車でやって来ました。新井の道の駅に併設されたスーパーホテルに宿泊し(厳密にはウォーキング前夜は道の駅で車中泊し、歩いた日の夜にホテル泊をしました)、この日は新井から1駅目の二本木(にほんぎ)駅に車を置いて出発です! この駅は信越本線で唯一残っているスイッチバック駅です。「スイッチバック」と言っても分からない人にはまったく分からないと思いますので少しだけ説明いたしましょう。

 普通、駅は線路上に造られます。ま、当たり前と言えば当たり前なんですが、当然電車は線路上を走ってきて駅のホームに到着し、お客を乗降させてそのまま走り去っていきます。西から来た列車は東へ、南から来た列車は北へ向かって出ていきますね。そう、それが普通の場合です。

 しかしもし駅が急坂の上に造られたとしたら? しかもそれが小高い丘の上だったら…? おそらく駅を造るのにも一苦労でしょう。ホームが斜めに傾いてしまいますからね。そこで、平坦な場所を探してそこに線路を引き込み、無理矢理にホームを造ることになります。しかし、そうすると今度はホームに入ってきた列車はそのまま発車できなくなってしまいます。本線からわざわざ線路を引き込んだわけですから、バックしないと本線へ戻れません。

 そんなわけで、こういった駅では駅に停車した後いったんバックして本線へ戻り、その後再び進行方向を変えて運行を続けていくことになります。この列車に乗っていると、2回進行方向が変わることになります。場合によっては(二本木駅ではありませんが)ワンマン運転の場合は、運転士がハンドルを持って車内を行ったり来たりする光景を見ることもできます。鉄道ファンは必ずチェックするポイント駅なのです。

 そんな二本木駅に車を置き、新井駅まで1駅列車で戻って(当然ここで進行方向が2回変わるのを実感しました)早朝6時45分にウォーキングスタート。まずはさっき車を置いた二本木駅まで、細い旧道を歩きます。時間的に通学時間帯に当たるようで、親に送られて新井駅に向かう高校生達の乗る車にたくさん出会いました。そして…自分で(!?)バイクを運転して駅に向かう男子高校生にも出会いました!! 無免許ですかね(確かに無免許運転しそうなタイプの男子高校生でしたが、前回のウォーキングでのこともありますから。詳しくは前回の旅日記を)!? もと高校教諭としては少し血が騒ぎました。

   

 スイッチバック駅である二本木駅のすぐ脇を通り過ぎ(横切った踏切は引き込み線ではなく本線の線路です)、さらに静かな旧道を歩いていきます。何百メートルか西側には国道18号線のバイパスが走っているはずですが、まだしばらくはこの閑静な旧道を楽しむことにします。

 前回の旅の最後に、上越市から妙高市に入ったと書きましたが、今回の二本木駅からしばらくの区間はまた上越市に戻ってしまいます。広いですね、上越市って。いや、地図で見るとそれほど離れていないのかな? 大きな地図で見ると、ここら辺りから西側の山に入って、前回のスタート地点となった名立川の上流に出る道があるような、無いような…。地理感が少し狂ってしまっているのかも知れませんが、ぐるっと直江津港をまわってきただけで、現実には山向こうにやって来ただけなんですね。

 トボトボと民家の間を歩いていくと、4月とはいえ暑くなってきました。二本木の次の駅は関山駅ですが、ここに来た頃にはもうかなり体力を消耗してしまっていました。しかもここからは国道18号線バイパスに合流。脇をトラックが暴走していくし(歩道はあります)、太陽は昼が近付いてきてますます元気だし…。

   

 ここから再び妙高市です。特徴のある形の妙高山がず~っと右手にそびえ立っています。まだ上の方は真っ白です! フッと後ろを振り返ると、国道バイパスには「日本海まで○○㎞」と書かれた看板が…。またまた前回別れてきた日本海を思い出してホロッとしてしまいました…。ちなみにこの先、妙高山を間近で眺望できる交差点が、スタートからの記念すべき2500㎞ポストとなりました。

 前方を見ると、大きなトンネルが口を開けています。歩道は…? ある。でも結構狭い。どうしよう。程良く左手には脇道が口を開けています。どうやら妙高高原駅がある集落らしい。こちらの脇道、行けるかな?? よし、行ってみよう! とまたまた下見をはずして知らない道へ進んでいきます。大丈夫かな…?

 結果的にはこちらを進んで正解と言えば正解でした。静かな坂道を下りていくと…素敵な川が流れており、ここが新潟県と長野県の県境となりました。かつては越後国と信濃国との境だったようで、関所も置かれていたようです。川の名前も関川。という訳でここは「関川の関」という何だか発音しにくい名前の関所になりました。視界がひらけ、はるか上空にはさっき避けてしまった国道18号線バイパスが高い高い高架橋で走っています。あんな無機的な道路じゃなくて、こんな素敵な川べりで県境を体験できて、やはりこちらを選んで正解だったなぁ…。

      

 長野県は信濃町に入ります。長野県は全域が「信濃」だと思うんですが、こんな小さな町が「信濃町」を名乗ってしまっていいんでしょうかね。ちなみにこのように自分より大きな地域の名称を使ってしまっている自治体名を僭称(広域地名)と言います。有名な所では愛知県東海市、岐阜県飛騨市、三重県伊勢市、などなどがそれに当たります。こういった自治体は、周囲から白い目で見られていることが多いとか…。

 僕のウォーキングは、さっき坂を下った分を取り返すように上り坂になり、ちょっと苦しくなってきました。ここらは積雪も多い地域らしく、道の所々にスノーシェド(要するに頭上を覆う屋根)があり、この日は日差しを避けるのに役立ってくれました。「スノーシェド」だけでなく「サンバイザー」にもなるんですね。

 再び国道18号線に合流し、民家もない寂しげな道を歩いていくと、突然視界がパッとひらけます。そして交差点にはナウマン象のモニュメントが! ここは中期石器時代の遺跡があることで有名な野尻湖の入り口です。高校で日本史を習った方はご存じかと思います。もとは「信濃尻湖(しなのじりこ)」という名称だったのですが、それがなまって「野尻湖」になったと言われています。また湖の形が芙蓉(ふよう)の花に似ているので「芙蓉湖」とも言われているらしいです。湖自体は国道に沿っているわけではないですが、ちょっと歩けば行けるほどの近さにあるので、ここにドライブする方はぜひ立ち寄って下さい。

   

 残念ながら暑さのため、僕は立ち寄る余裕はなく、そのまま国道を歩いて、次の駅を探しました(あとで地図を見たところ、湖の岸を回っても距離にあまり変わりはなかったみたいです…)。しかし前の妙高高原駅(まだそこは新潟県でしたね)からはかなり歩いているはずなのに、駅のにおいすらない!

 結局道ばたのコンビニでアイスクリームを買って一休憩し、その先の上信越自動車道の信濃町インターチェンジを過ぎた頃に、ようやく黒姫駅の標識が見えてきました。今回は久しぶりに、最後の方は辛かった。駅に着いて、ホームでしばし風に当たっていましたが、何だか少し吐き気がし、軽い熱射病になってしまったのかも知れません。やって来た列車で二本木駅の車に戻り、水をがぶがぶ飲んでようやく一息をつくことができました。

 余談になりますが、この日の夜は新井のスーパーホテルに宿泊し、翌朝、歩いたコースを車で距離測定しながら帰ったのですが、ほぼ同じ時刻に同じコースをたどったということもあり、またまた「バイク通学」する同じ男子高校生を見かけました。やはり毎日バイク通学しているんですね。新潟県の高校生はそれが認められているんでしょうか? 前回の旅日記にも書きましたが、愛知県では常識であることも、他県では違うってこともありますからね。誰か情報を下さい。ま、いずれにしても事故には気を付けて下さいよ!

 次回は県庁所在地、善光寺で有名な長野へ到着します。




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