第117回 軽井沢(長野県北佐久郡軽井沢町)→松井田(群馬県安中市)
平成21年12月14日 晴れのち雨 23.9q 5時間30分
景色も天気も変わり、空気も変わる碓氷峠
久しぶりに電車にて旅へ出発! いよいよ長野県を脱出して群馬県に入るということで、今までは長野県内にとっていた宿も、今回は群馬県側の高崎市にとりました。よって東海道本線を利用して、東京都から現地に入ることになります。今までは飯田線か中央線を利用した長野経由の往路でしたから、何だかとても新鮮でした。これからはこのルートが増えるんでしょうね。そうなると今度は長野経由のルートが懐かしくなってくるのかも知れません。
さて今回はスタート地点の軽井沢駅に行くのにも一苦労です。宿をとった北高崎の駅から信越本線に乗るのですが、この信越本線、中山道の難所である碓氷峠(うすいとうげ)を越える部分が廃線になってしまい、この部分1区間(横川〜軽井沢)のみバス連絡となっています。峠を越えられなくて廃線にするくらいなら、現代の掘削技術でトンネルを掘ればいいのに…と思うのは素人の考えで、ここにはトンネルを掘ることは難しいのです。
通常、峠というのは上って下ることになります。ま、山なんだから当たり前ですね。しかしこの碓氷峠は長野県側の標高が群馬県側に比べて異常に高い。つまりトンネルを掘っても向こう側に貫通することができず、そのまま長野県側の地中に到達してしまうのです。それでも何とか北陸新幹線はうまく作ったみたいですが、在来線はそこまで手をかけられることなく廃線となってしまったのでした。それにしても分断されてしまって「信州」にも「越後」にも行けないのに「信越」本線なんて…。
鉄道さえ走ることをあきらめてしまった碓氷峠を今回は歩こうというのですから、結構腹をくくるほどの難行になるでしょう。…と思っていたのですが、先に説明したとおり、長野県側の軽井沢から群馬県側に向かう場合は、峠道すべてが下り坂となっているので、意外にも苦しくはありません。しかし今回の敵は「雪」でした。軽井沢は言わずと知れた豪雪地帯。12月はまだ雪が少ないとは言え、しっかりと積もっていました。群馬県はまったく雪が無かったのに、やはり碓氷峠はただの県境ではなく、「関東平野」と「甲信越」の天気の分かれ目になる峠なのですね。
歩道に積もった雪に気をつけながら、軽井沢駅の喧噪を後にしてものの15分も歩くと早くも県境の碓氷峠に到着します。今回歩くのは旧道ですから、車の通りも少なくまだまだ雪はたくさん残っていました。とりあえず群馬県は初見参なので、ここで雪の残る峠と標識を撮影しました。これで12個めの都道府県を踏んだことになります。全47都道府県の4分の1を越えました!!
さっきまでの人混みはどこへやら、周囲には鳥の鳴く声しか聞こえてきません。これが大自然ウォーキングの醍醐味なのですが、「熊やイノシシが出てきたらどうしよう!?」という心配も実は少なからずありました。ちなみに今回のウォーキングでは猿・鹿・リス・キツツキにお会いしました。他には影しか見えなかったけれど、狸もいたような…。とにかくワイルドなコースです。
このような状況が約10キロほど続き、時折通る車がスリップをくり返しながら過ぎ去っていきます。以前に下見をしたときの印象ではもっと樹木が覆いかぶさっていて暗かったような気がしたのですが、何だか思っていたよりも空が見えて明るかったです。たぶん下見をしたのは9月頃だったから、その時には生い茂っていた葉っぱが今は落ちてしまっているからなのかもしれません。よく見ると道路脇の木は今はほとんどが裸です。
標高は徐々に下がってきます。峠から7qほど過ぎた頃、旧道沿いにかつての信越本線の線路跡が見えてきます。廃線跡というのは本当にわびしいものですが、この辺りの線路は鉄道文化財として残されているので見学に来る人も多く、有名な(誰にだ!?)碓氷第三橋梁にはこの日も車が何台か止めてあって写真を撮っている人がいてにぎわっていました。この橋はその形状と壮大さから通称「めがね橋」と呼ばれています。いろいろなサイトで見たことはありましたが、この機会に僕ももちろん写真に収めてきました。ちょうどバックには青空が広がり、絶好のアングルで撮ることができました。
「車でサッと乗り付けたおまえらと違って、僕はずっと軽井沢から歩いてきてるんだぞ!」と周りの人たちに自慢げに叫びたくなりましたが、現実にはその叫びは心の中だけにとどめておいてさらに先へと歩を進めていきました。この旧道沿いには他にも見所がたくさんあり、自然の美しさとしては碓氷湖(坂本ダム)、人工の物としては旧中山道の坂本宿などがあげられます。坂本宿は(江戸からみて)群馬県最後の宿場で、これから碓氷峠を越えようとする旅人のために人工的に作られた宿場町です。今回の僕の旅は、この坂本宿に到達したときにようやくホッと一息をつくことができたのでした。「あぁ、熊やイノシシに出会わずにすんだ!! 僕は生きてる!!」てな感じでね。ちなみに写真左は碓氷湖、右は坂本宿の入り口です。
坂本宿は残念ながら道路が工事中で、往時の雰囲気を味わうことはまったくできませんでした。ほどなく右手から碓氷バイパスが合流し、信越本線の現在の群馬県側の終点、横川駅が現れます。ここは本家「釜めし」で有名な地。益子焼の釜に炊き込みご飯とたくさんの具が並べてあるもので、老舗の「おぎのや」さんで今回もおいしく昼食をとらせていただきました。下の横川駅の写真では右手に「おぎのや」さんが店を構えており、駅と「おぎのや」を裏妙義の山が見下ろしているという状況を実感してもらえることと思います。ちなみに釜めしというのは、かつて防人(さきもり)が碓氷峠を越える際に土器で自炊をしたという伝説から発案されたらしいです。
横川駅でおなかをふくらませた後、まだまだ体力と時間に余裕があったのでもう少し先へ進むことにしました。峠越えというのは、その瞬間に今までの景色に別れを告げ、新しい景色の中に入り込んでいくものなのですが、今回は山道が険しかったこともあり、ここに来て初めて「長野県を去って群馬県に来たんだ」という実感がわいてきました。そう思って息を吸ってみると確かに長野県と群馬県の空気は違う! これは感覚的な問題だけではなくて、絶対に間違いない。特に避暑地としてにぎわっていたあの「軽井沢」と、裏妙義に見下ろされたこの静かな「横川」は、峠1つ隔てているだけとはどうしても思えず、それを自分の足で越えて実感することができるところに、またしても自分の「ウォーキング旅」の贅沢さを思いました。
軽井沢と違ってもう雪はまったくないものの、何だか風が強くなってきました。そういえば昔から「上州名物、かかあ天下とからっ風」っていうなぁ…。山々から吹き下ろす風は半端じゃないみたいです。しかし「からっ風」の影響だけではないようで天気も少しずつ下り始め、いつの間にか空も曇り、ポツポツと雨が降り出してきました。残念! 今回は何だか足の調子が良くてまだまだいけそうなのに…。というわけで、こちらも中山道の宿場町である松井田を、今回のウォーキングの終着地としました。松井田駅はちょっとした高台にある駅で、碓氷峠のふもとの横川駅に比べるとだいぶ平野がひらけてきたように感じます。
次回は、群馬県の中心都市(でも県庁所在地ではない)、高崎市に向かいます。