第148回 餘部(兵庫県美方郡香美町)→岩美(鳥取県岩美郡岩美町)

平成27年8月13日 雨時々曇り 31.0q 6時間40分

雷鳴轟く日本海

 いろんな天候時に歩いた記憶がありましたが、歩き出しから傘を差して歩き出したのはほとんど記憶がありません。記録をひもとくと第121回で栃木県の足利を出発したときに傘を差していたようですが、この時は1時間ほどで天気が回復するという予報でした。今回は基本的に一日中雨の予報。ただ曇り空になる時間帯もあるかも知れないということでした。よって今回の写真はすべてちょっと暗い感じのものになってしまっています。そのぶん臨場感を味わってください。

     

 前回一生懸命坂を上った餘部駅。高い高い空中にある「空の駅」です。今回はまずその坂を下り、下界に出てきました。ここまでですでに8分。さぁここからが今回の旅の始まりです。

 餘部集落は三方を山に、そして北側を日本海に囲まれた静かな集落です。この日はお盆の真っ只中のため、各家をまわって読経をしているお坊さんにたくさん出くわしました。雨も降っているし蒸し暑いし、お坊さんも大変そう…。

 集落を抜けるとここからはまた次の峠へ向けた上り坂が始まります。雨は小降りになり、いったん傘はたたむことになりました。曇っていても、そして湿度は高くても、やっぱり雨が降っていないと歩きやすい。20分ほどで桃観峠(とうかんとうげ)にたどり着きました。ここのトンネル、歩道があまり広くはありません。そして並行するバイパスもありません。よってそこそこの交通量を覚悟していました。しかも路面が濡れている…。こんな狭いトンネル内で「水はね」されたらたまらないなぁ。

 でもその心配は杞憂に終わりました。まず意外にも交通量はそれほど多くない(お盆だからかも…)。そして当然と言えば当然なんですが、トンネル内の路面はほとんど濡れていませんでした(忘れていましたがトンネル内は雨降らないです)。500m弱のトンネルを抜けると、そこは兵庫県の北西の果てに位置する新温泉町。いかにもいいお湯が沸き出していそうです。

        

 坂を下りながらようやく平地に出てきたことに安堵していると、再び雨が降り出してきました。しかも西側の空はかなり暗く、遠くでゴロゴロと雷の音が…。とにかくまずは次の浜坂の駅まで急ごう。

 浜坂駅は山陰本線の中でも要所となる駅の1つです。東側へ向かう城崎温泉行きや豊岡行きと、西側へ向かって県境を越える鳥取行きの乗り換えとなる駅。そして南に8qほどの山間にある湯村温泉への最寄り駅ということにもなり、観光客の数はそれなりにある駅です。そして駅の横には鉄道ファンが喜ぶ鉄道グッズの展示室「鉄子の部屋」が常設され、駅前の広場には小さな足湯。一度は途中下車してみたい駅の1つでした。

 しかし今回は「途中下車」ではなく、僕は自分の足で到達してしまいました。しかも雨の中を…。とりあえず駅の正面にあった街の案内所に入り、一息つかせてもらいました。こういう風情のある施設があると本当に助かります。

     

 この蒸し暑い中、キーンと冷房の効いた部屋にいるともう外に出たくなくなるのですが、そこは根っからの歩き人。案内所の人に道を確認しつつ、雨の中を再出発する決意を固めました。しかしこの案内所に立ち寄った功績は大きかった。本来の予定ではここから国道沿いに西進を始める予定でしたが、雨の中歩道のない急坂だという話。そして海沿いには新しい道が出来ていて、そちらは広い歩道のあるトンネルだという情報もいただけました。本来トンネルはあまり好きではないのですが、猛暑の日と大雨の日は別問題。言うまでもなくトンネルは助かります。僕も迷うことなくトンネルの方へ進みました。

 トンネル内で小さなかわいいコウモリを見かけましたが(虫と違ってコウモリは嫌いじゃない。だって僕らと同じ哺乳類ですから)、雨には煩わされることなく次の集落である諸寄(もろよせ)へ。なんとこんな大雨にも関わらず浜辺ではたくさんの向こう見ずな観光客が海水浴をしていました。まぁ向こうから見れば「向こう見ずな旅人が大雨の中を歩いているよ」と思ったことでしょうが…。

 諸寄からはさらに何本ものトンネルを越えて居組の集落へ。海に面したこの区間は本来ならば旅人の目を楽しませてくれる区間なんでしょうが、雨は降っているわ雷は轟いているわ、で残念ながら恐怖しか感じられませんでした。海沿いの何も隠れるところのない場所で鳴る雷って想像以上に怖いです…。

 ようやく雷もおさまり始めた頃、居組の集落へ。ここからは再びバイパスが開通しているので交通量も減り、歩き人としてはホッとします。集落の中の簡易郵便局でお手洗いを拝借し、水分も補給していよいよ鳥取県との県境へ向かい始めます。雨の居組漁港は何とも言えず寂しげで閑散としていましたが(写真左)、この先、坂を上ってから見下ろす漁港(写真右)は霧も立ちこめて非常に幻想的でした。これも雨の日だからこそ見られる光景ですね、とプラスに考えておきます。

          

 雷はもう聞こえなくなりましたが、ここで雨がいっそう激しくなりました。県境への坂を上っているので足下を滝のように降り注いだ雨水が流れます。まるで道路の上が川になったよう(道路マニアの専門用語で「洗い越し」と言います)。靴の中も、デニムの裾も、もうベチョベチョ。だんだん重さを感じるようになってきました。傘もほとんど役に立たない…。

 だいぶ疲れ切った頃、ようやく雨が小降りになってきました。そして視界がパッと開けるとそこには「鳥取県」の文字(写真左)。豊岡市から日本海側を歩いてきた兵庫県とも別れを告げて、今回は雨の中での県境越えとなりました。一応振り返って兵庫県側の看板も撮影しておきました(写真右)。これで僕の徒歩旅では20個目の都府県に入ったことになります。

          

 山道が続いた兵庫県側とうって変わって、鳥取県に入るとすぐに東浜ビーチが目に入ります。ここでも雨天にも関わらずたくさんの海水浴客。遠目に眺めた時(写真左)はあまりよく分かりませんでしたが、近付くとバーベキューをする姿があちこちで見られました。海岸沿いを歩くと肉が焼けるいいにおい! そして雨もいったん小康状態になると、浜辺では待ってましたとばかりに海鳥たちも散歩を始めていました(写真右)。そしてここが、スタートからのトータル3600qポストとなりました。

        

 さぁ今回の旅も終わりに近付いてきました。東浜ビーチを抜けるといよいよ視界はひらけ、広大な鳥取平野(砂丘)の東口に入ったことを予感させます。思えば第141回の旅で、老ノ坂峠から京都の平安京を脱出して以来、ずっと山間を歩き続けてきました。広大な平野はほとんどなく、常に身に危険を感じながら(勝手にやっていることですけど)西進してきましたが、ここからしばらく、島根県の出雲平野あたりまでは広くて安全な所を歩けそうです。

          

 今回は宮津駅以来、久しぶりに街の中心にある駅、岩美駅を終着としました。鳥取駅まではあと3駅。次回は鳥取砂丘を眺めながらの素敵なウォーキングになることを期待します。

 


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