第161回 特牛(山口県下関市)→下関(山口県下関市)
平成31年1月20日 小雨のち晴れ 45.2q 11時間20分
山陰と山陽が合流する地!
京都の三条大橋を出発して山陰を巡ってきた旅もいよいよ最後の1ピースをはめる時がやってきました。日の出が遅い西国の山口県ではまだ真っ暗な朝7時。小雨が降りそうな山陰本線特牛駅を誰にも知られることなく一人歩き出し。5か月前に残暑の昼下がりに昼寝していた猫は、当たり前のようにもういない冬の早朝。観光地角島へ向かうバス停も暗闇の中で静かに佇んでいます。
特牛駅は本州の西端の海辺へ出る直前の山間の中にあります。今回のウォーキングは最初の2時間でこの山間を歩きます。午後からは天気が回復するとの予報ではあるものの、まだ微妙に雨が降る中での山道ウォーキング。クマやイノシシに遭遇しないように思いつく歌(ただし縁起でもないので「森のクマさん」以外)を歌いながらの1時間です。
5kmほど歩いた朝8時、無事に動物たちに見つかることもなく少し大きな集落へたどり着きました。眼前には強風で回る大きな風力発電機。そして道端の公民館では早朝から町の方々が作業をしていました。よく分からないけど稲わらをついているような感じでした。最初は餅つきでもしているのかと思いましたが…。とにかく周りに人がいるというだけで少しホッとします。
特牛駅から2駅目の長門二見駅へ到着するころには完全に身体も温まり、また雨もちゃんと止みました。まだ曇ってはいるものの、下関までのこの先40km弱ある道のりを考えると、だいぶ勇気が湧いてきます!
ここでようやく道は山間から海辺へ。この海はもう前回別れた日本海ではありません。本州の西側に広がる、定義上は内海である響灘。北東は日本海へ、南西は玄海灘へとつながる海です。しかし内海とは言ってもそれは定義上のことで、実際には波は激しい。しかも今日は強風注意報が出ているほど北西の風が強く、かなり高い所を走る国道にもギリギリ波が打ちあがってしまいそうなほどです。
響灘はかつてはヒジキが採れる比治奇灘と呼ばれていました。それが訛って響灘となったという説が有力なようです。でも今日のこの波の響きを聞いていると「波響き」から響灘となったという説を採用したいですね。
右手にはしめ縄が張られた夫婦岩。波が高い上に海側には歩道が全くないので怖いのですが、車が来ない隙を見て写真を撮りに近付いてみました。そう言えば先ほどの駅名からも分かるようにこの地域の名前は二見浦。三重県の伊勢にも二見浦があり、やはりそこにも夫婦岩がありますよね。逆に夫婦岩があるから「二見」って地名になるのかな?
海から少し離れた所に入るとようやく波音も少し静かになります。左手には何やら民家風のカフェ。庭先にテーブルが見えますが、ここで強風に身をさらしながらコーヒーを飲むのは狂気の沙汰だなぁと思いながら歩いていたら、お店の名前「COFFEE−MILK−CRAZY」(笑)。
右手には海を遠くに眺めながら潮風に吹かれて佇んでいる宇賀本郷(うかほんごう)駅。相変わらずの頼りなさげな感じの駅。いいね。そして山を見ると実用的な煙突のある民家。サンタさんも入りやすそうです。何だかサザエさん一家が吸い込まれていきそうな感じもします。
鳥井ヶ峠という少し小さめの峠を越えると湯玉駅。久しぶりにコンビニを見かけたので(今日のウォーキングでは初めてかな)お手洗いを済ませて温かい紅茶を飲みました。さらに先へ進むと予報通り青空が広がってきて、ようやく山陰地方から瀬戸内側に入ってきた感じの街が見えてきました。バス停には名産の夏ミカン(?)がポツンと置いてあり…。
突然左手には福徳稲荷の大きな赤い鳥居が見えてきます。晴れ間も出てきて青く見える海との素敵なコントラスト! 国道に歩道がないのが残念ですが、ここも山口県西海岸の絶景ポイントと言っても過言ではないでしょう。
小串駅を過ぎるとここから先は下関まで電車の本数が急に増えるので安心です。ただし車の交通量も増えるので危険も感じながらのウォーキングになります。川棚温泉駅を越えるとまたまた小さな峠が迫ってきます。下関まで20km、いよいよゴールが視界に入ってきました!
下関市街への最後の峠は梅ケ峠(うめがとう)。「げ」は入りません。山口県にはJR美祢線にも「湯ノ峠(ゆのとう)」という駅がありますが、峠を「とう」と読むのはこの辺りの風習なのですかね? いずれにせよ、この峠にある山陰本線の梅ケ峠駅は本当に梅が咲いている素敵な駅です。経度の関係でこの駅が本州の最西端の駅になります。下関駅ではないのですね。
さぁもう峠越えもありません。吉見駅を越えて再び響灘に再会すると、太陽に照らされた沖の方に幻想的な光景が! 相変わらず強風は吹き付けてはいるものの、荒れる波とコラボしたこの写真はまさに絶景! そしてウォーキングはついに下関市街地の安岡バイパスに足を踏み込みます。
京都で東海道本線と別れた山陰本線は、1駅目が丹波口、2駅目が二条、3駅目が円町。そのまま京都府から日本海側へ出て兵庫県、鳥取県、島根県、山口県と走ります。嵯峨嵐山は6駅目、福知山は27駅目、城崎温泉は39駅目、鳥取は54駅目、米子は77駅目、松江は82駅目、そして100駅目は仁万(サンドミュージアムがある所です、第155回の旅参照)になります。さらに浜田は113駅目、益田は121駅目、今日のウォーキングの出発駅である特牛は144駅目。
そして山陰本線単独駅としての最後は157駅目の綾羅木(あやらぎ)駅です(下の写真左)。もう普通に街中の駅です。この駅を越えた川中交番前が、スタートからの4100q地点になりました。そして起点の京都から158駅目の幡生(はたぶ)駅でついに山陽本線と再び合流し、下関駅までの1駅間は山陽本線と山陰本線が並走します。僕の山陰旅も最後はここに並んで進みました。
初めて「下関」の地名を看板で見たのは島根県。その時はまだ260kmを越える数字を示していて愕然となっていました。しかし今、もう「下関」が手の届く所に(さすがに比喩表現です。まだ5kmほどあります(笑))。看板には下関駅と並んで九州の地名まで出てくるようになりました。
日も暮れてきた午後6時20分。今朝たった一人で寂しく特牛駅を出発した時とほぼ同じくらいの暗さの中、無事に下関駅へ到着しました。ちょうど向かい側からは第157回の旅の最後に益田で別れた国道9号線が下関にアクセスしてきました。またお互い無事に会えましたね。
第141回から始まった山陰を巡る長い長い旅もついに終了。第141回でいきなりスタートの嵐山から左足の爪をはがしてしまったこと、第145回の天橋立で大雪に降られて動けなくなって案内所の方に助けてもらったこと、第148回の兵庫・鳥取の県境では雷鳴とどろく中を歩いたこと、第150回の鳥取で初めて50kmを越えるウォーキングをしたこと、第152回のベタ踏み坂で震えながら島根入りしたこと、第153回で縁結びの神様である出雲大社で門前払いされたこと、第155回の江津で野生のイノシシに遭遇したこと、第159回で日本一短い駅名の飯井駅を訪問したこと、第160回で憧れだった特牛駅を踏んだこと。いろんなことを思い起こしながら、長い長い山陰旅、これにて完結! 次回からはまた下関から新たな旅立ちです!