第172回 福山(広島県福山市)→矢掛(岡山県小田郡矢掛町)

令和4年9月10日 曇り 距離未測定 9時間0分

小さな小さな大峠

 

 暦の上では9月になっていますが、「暑さ寒さは彼岸まで」の言い伝え通り、9月上旬の気候はまだまだ蒸し暑さが勝っています。予想気温も最高は30℃を超えるとなっていましたが、それでもほぼ一日中曇り空という予報を信じて、福山を朝7時40分に歩き出しました。いよいよ広島県ともお別れの時が近付いています。

               

 福山駅から国道に出るまでの小途は寺町との地名通り、様々な宗派の様々な名称のお寺が次から次へと並んでいます。福山城のふもとの城下町でもあり、門前町でもあるのですね。朝の静かなひととき、お寺を眺めながら歩くのもいいものです。

 福山市は広島県の東端に位置する市です。ここから国道2号線に沿って東進すればすぐに岡山県笠岡市に入れます。しかしいろいろ考えた結果、今回のウォーキングは少しだけコースを北に変え、旧山陽道を歩こうということになりました。福山市街から北へ歩き出すと、まずはほんの小さな峠があり、どうやら高校生たちはこの小さな峠を自転車で越えて通学している子もいるみたいです。この日も土曜日だというのに、何人かの高校生たちと出会いました。ちなみにこんなに小さな峠なのに名前は「大峠」らしいです(笑)。

     

 すぐに平地に降りてくると、JR福塩線の横尾駅があり、この夏に甲子園に初出場した盈進高校があります。残念ながらここからしばらくは歩道がなくなってしまい、駅や高校をゆっくり眺める余裕はありませんでした。目に入ったのは突然現れた不思議なカフェの竜の絵くらいでした。

               

 2時間ほどで旧山陽道と合流。JR福塩線の神辺(かんなべ)駅が見えてきて、ここからJR伯備線の清音駅までは井原鉄道に寄り添ってもらって歩きます。乗ったことのない私鉄なのでその鉄道の方もとても興味津々です。

               

 さてせっかくなのでしばらくは国道から外れて、神辺宿の旧道を歩きます。神辺本陣跡も残っているし、廉塾も往時の雰囲気を残しています。旧山陽道の散策マップも立てられていて、とても歩きやすい宿場でした。

     

 旧街道を歩くと一里塚がとても頼りになります。1里は普通に歩くと約1時間。歩くペースの参考にもなります。もちろん現在各地の街道に立てられている一里塚はそのほとんどが近代になって観光用に立てられたものですが、それでもぜひ保存し続けてほしいと思います。神辺宿を通り過ぎた所のコンビニで、まずは本日最初の糖分補給タイムでいつも通りのクーリッシュバニラ。

     

 御領を過ぎるといよいよここからは右手に井原鉄道が並走します。左手には小高い山。それでもさすがに旧街道らしく、まだまだあちこちにお寺や神社が残っていました。目をひいたのは山裾に建てられている小寺です。「投入堂」というほどではありませんが、それでも山裾にピタッとはめ込んである感じの素敵なたたずまいでした。

               

 さてここでいよいよ広島県とお別れです。第167回の旅で大竹市に踏み込んでからずっと続いてきた広島県に別れを告げ、ここからは岡山県井原(いばら)市です。岡山県は僕のウォーキングでは初めて踏み込みます。トータル24個目の都府県。これで陸続きでないから歩きに行けない北海道と沖縄を含めても過半数を制覇しました。さぁまた新しい県での新しい出会いが始まります。

               

 井原市は「子守唄の里」として有名で、井原市に入って最初の駅も「子守唄の里 高屋」という駅名です。井原鉄道にはこういった名称の駅がいくつかあります。中国地方の子守唄発祥の地なんですね。高架のきれいな駅前に像と碑が建てられていました。

     

 ここで旧山陽道は現在の国道から1本はずれて民家の間を縫うように通っていきます。でもこういった所にやっぱり一里塚が建っているんですよね。車もあまり通らないし、優雅なウォーキングを堪能できた小一時間となりました。

               

 いよいよ井原駅が近付いてくるとそろそろお昼間近です。曇っていてもやっぱり汗は流れているから、ここで再び水分と糖分を補給したいところ。パッと見ると道端で元気のいい老夫婦がこじんまりとしたお店をやっていました。せっかくなのでお手洗いをお借りしながら大きなかき氷を作ってもらい、少し休みました。街の郵便屋さんが立ち寄って行ったり、とても地元で愛されている感じの素敵なお店でした。

               

 さぁここからが後半戦。右手に小田川を眺めながらさらに吉備路を東進します。大きな河原には白黒様々な鳥たちが集まっていて、暑くはあっても川面を吹き渡る少しだけ秋を感じる風に吹かれながら休んでいました。僕もそれを遠目に眺めながら、ゆっくりゆっくり歩を進めました。

     

 井原市は「子守唄の里」であるとともに「早雲の里」でもあるようで、井原の次の駅はまたまた「早雲の里 荏原」という駅でした。北条早雲生誕の地のようですね。ちなみに「えばら」と読みます。

               

 井原市を通過して小田郡矢掛町へ入ると、この日ようやく曇り空から太陽がのぞきました。最後の2時間ほどは残暑厳しい太陽の光を浴びながらのウォーキングとなりましたが、稲刈り前の田んぼと山々の緑が日光に映える景色を見られたので、それはそれで良しとしましょう。でもやっぱり暑いのでこの日3回目の糖分補給。さぁゴールまであと一息。

     

 旧山陽道の宿場である矢掛(やかげ)宿は本陣・脇本陣ともに残っている情緒あふれる古町です。夕陽が差して何だか寂しさが醸し出されるこの街並みが今日のウォーキングの最後の一コマになりそうです。次回はここから歩き始めるから、その時は今度は朝陽を浴びる矢掛宿を見られるのを楽しみにします。

     

 午後4時40分、井原鉄道の矢掛駅に到着。近くにある矢掛高校の生徒たちの帰路の少しだけお邪魔をしながら、やって来た一両列車に乗り込みました。ゴール地点はずっと「市部」が続いていましたが、今回は第150回の御来屋(大山町)以来、久しぶりに「市」ではなく「町」がゴールになりました。

               

 次回は岡山県の中心地へ入っていきます。金田一耕助を生み出した、あの有名な横溝正史さんの聖地である総社へも立ち寄りたいと思います。


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