第174回 吉備津(岡山県岡山市)→伊部(岡山県備前市)

令和5年3月14日 快晴 距離未測定 9時間10分

桃太郎はなぜ名刀長船を使わないのだろう!?

 

 朝は超激寒、昼は暖か、こういう季節は服装に困りますが、ウォーキング人間にとってもそれは同じです。今回のウォーキングは出発が朝7時50分。この段階での予想気温は1℃ですから、コートは確実に必要です。

 しかし、昼間の予想気温は15℃超え、しかも風はほぼ吹かないし、日差しは十分なほど降り注ぐとなれば、これはコートを脱ぎたい気温です。まぁ、そうなったらなったでコートは手にもって歩けばいいや、と決断し、とにかく朝は「コート+ネックウォーマー」という姿で前回のゴールとなった吉備津駅に降り立ちました。前回の最後は、日も暮れた上に雨も降りだしてきてしまった中でのゴールだったので、この吉備津駅を明るい中で眺めるのは初めてです。

               

 駅から数分歩くと、赤い橋と松並木が吉備津神社へと誘(いざな)ってくれます。実際に早春の空気は刺すように冷たいけれど、吉備津神社の荘厳な空気がさらにその冷たさを加速させます。残念ながらまだ沿道のお店は開いている時間帯ではありませんが、参拝者はすでに何人かみえました。僕も旅人ながらその参拝者の1人となって手を合わせて、今日のウォーキングを始めました。

     

 吉備津駅の隣の駅は備前一宮駅、こちらも神社が鎮座する駅だという予想がつきそうな駅名ですね。こちらにあるのは吉備津彦神社です。温羅を退治した伝説が語り継がれる神社で、一説には岡山県の桃太郎伝説はここが発祥だとも言われています。先程の吉備津神社から約1.5km、神の宿る山のふもとをぐるりと回って到着できます。吉備の中山みちと呼ばれ、なかなか味のある散歩コースです。ただ、とにかく寒い…。

     

 吉備津彦神社を過ぎると道は国道に合流し、神の住む世界から、いよいよ人の住む気配たっぷりの街中に入ります。岡山市街地へ向かうこの国道は不必要なほどクネクネと蛇行します。旧山陽道ならば折れ曲がる理由もありそうなものですが、自動車が通ることを想定する国道がこんなにも方向を変えながら進むのはなぜなのかなと、地図を見て不思議に思っていましたが、実際に歩いてみて何となく分かった気がします。このあたりの平野はただの平たい平野ではなく、平野の真ん中をさえぎるようにポツンと小高い山(というか丘)が点在するのですね。だから国道はその山のふもとをグルリと回る羽目になっているのではないでしょうか。

 ようやく高い建物が目に入ってくるようになると、そこはJR桃太郎線の備前三門駅。もうかなり街中に出てきたのに、見上げると急にとてつもなく大きな鳥が!と思ったら、関西(かんぜい)高校のオブジェでした…。

               

 交差点の陸橋の上から岡山駅を眺めながら、いよいよ県庁所在地の雰囲気のあるメインストリートへ。ふと足元を見ると、マンホールには当たり前のように桃太郎が描かれていました。そして視線を前方へ移すと、はるか向こうに岡山城と後楽園。天気も快晴なので、キラキラ輝く川面も相まって、素晴らしい吉備の風景でした。やはり「晴れの国」岡山は、晴れた日に歩いて正解です。

       

 さらに川を渡りきると竹久夢二の郷土美術館もありました。後楽園のすぐ近くです。今回は入館しませんでしたが、また自動車で距離測定に来るときには絶対に立ち寄りたいと思います。

               

 岡山市街地を抜けると、再び国道に合流、ここからしばらくは左手にJR山陽本線が並走します。東岡山駅、上道(じょうとう)駅と進んでいくと、本当に少しずつですが市街地から離れていることを実感できます。途中、軽食をとりましたが、この10km超の区間は、方角も変わらず比較的単調な道のりでした。ただ、左手を眺めると、高層ビルが並んでいた視界にいつの間にか山が連なり、遠くに風情ある寺院の階段も見えました。一歩ずつですが着実に歩を進めている実感がわきます。

               

 午後2時も過ぎた頃、東側をバイパスとして走っていた国道2号線と合流。それとともに吉井川の心洗われる眺めも入手できますが、国道2号線を激走するトラックの恐怖も同時に体験しなくてはなりません。歩道は道端にあったり、少し離れた所へ動いたり、この1時間は本当に気を遣いました。それでも何とか、備前大橋へ到着。この大橋にはしっかりとした歩道が設置されていて安堵しました。

       

 この橋で吉井川の左岸に渡ると、ここで岡山市ともお別れ、瀬戸内市に入ります。ここは刀剣、備前長船で有名な長船町です。国道からはずれた小径には備前長船刀剣発祥の地の石碑も建っていて、さらに進むと刀剣博物館もありました。竹久夢二の美術館といい、今回のコースは自動車でまわった時に立ち寄りたい施設がたくさんです。ところでずっと思っていたのですが、桃太郎は鬼退治するのに、こんなに有名な地元の名刀長船をなぜ使わなかったのでしょう…。さすがに鬼とはいえ、刃物で切り付けるのは残酷すぎるからでしょうか!?

       

 再び国道2号線に合流すると、JR赤穂線の香登(かがと)駅。山陽本線は山の向こう側へ離れていってしまい、ここからしばらくはこの赤穂線と並走します。国道2号線は相変わらず歩道があっちへ行ったりこっちへ行ったり、なかなかトラックの恐怖から逃れさせてくれません。

               

 さぁここから今回のウォーキングも最後の1時間です。次の伊部(いんべ)駅までは真東へ進むコース。西日を受けた自分の影が歩道に長く真直ぐに浮かびます。春の日差しは侮れないので頭には帽子、そして結局朝からずっとコートは着用したままなので、その裾がマントのようになって…。首から上は金田一耕助、首から下は怪人二十面相、そんな素晴らしいシルエットに魅せられて1枚撮影しました(怪人二十面相は実際は金田一耕助ではなく明智小五郎シリーズですけどね…)。

               

 この区間のメインシーンは何と言っても左手に見えてくる大ヶ池です。そしてその上を通る新幹線高架が池面に映る景観。波が静かな快晴の午後は、これが一番きれいに堪能できます。30kmを超えて疲れを感じ始めた僕にラストスパートの勇気を与えてくれました。

               

 そしてようやく、伊部の街に入りました。伊部は備前焼の里として知られ、街中のあちこちに赤レンガの煙突が見られます。愛知県の常滑市と似た空気を感じられる、素敵な地域です。駅前にも赤レンガのモニュメントがありました。

       

 午後5時、JR赤穂線の伊部駅に到着、ここが今回のゴールです。岡山県も東の端に近付いてきました。いよいよ次のウォーキングでは兵庫県に入りそうです。このまま国道2号線に沿って山越えで兵庫県入りしようか、それとも海沿いに赤穂経由で兵庫県に入ろうか。次回までゆっくりと考えたいと思います。

               


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