第21回 中部天竜(静岡県磐田郡佐久間町)→瀬尻(静岡県磐田郡龍山村)

平成11年8月13日 晴れのち雨 15.1q 4時間20分

崩落危険!!

 今回は充分運転に注意しながら、出発地の中部天竜までやって来ました。前回の旅日記にも書きましたが、この辺りは道も狭く険しいのであまり車で来るのはお薦めできないのですが、今回は中部天竜から先のコースの下見をしていなかったため、車で来て、歩く前に下見をすることになりました。

 まずは天竜川を逆流するように、川沿いの県道を富山村に向かうルートを候補に挙げました。しかし、実際に車で下見をしてみるとこのルートは結構距離があり、バスも走っていない(当然民家は皆無、車もほとんど走ってこない!)ので途中で足を傷めてしまったら即アウト! しかも前半にある「うなぎだるトンネル」は、素掘りな上に細く長く、内部に照明などなく、どう考えても歩くのには無理がある。車にはねられるとか以前に、何かとんでもない生き物まで生息してそうで。

 結局こちら方面への歩行はやめ、天竜川下流方向へ進み天竜市街を目指していくことになりました。こちらはバス停もあるので、下見はそこそこでも何とかなるだろうということで、早速車を中部天竜駅に置いて歩き始めました。時刻はまだ早朝7時50分。

 前回この駅に来るのに渡ってきた橋を渡り、国道に戻って行きました。すぐにそれほど長くはないものの結構危険なトンネルが立ちはだかります。内部でカーブしており、交通量も多いため(またまた忘れていましたが、ここは国道でした…)非常に怖い! しかも横は発電施設になっており、雰囲気としてもかなり不気味です。でもここを通らないと先へ進めない!

 確かに佐久間駅(中部天竜の次の駅です)方面に行くにはこの国道のトンネル以外に道はありません。何しろ両側はガケと天竜川(と発電施設)ですから…。しかし後に知ったのですが、歩行者にはもう1つ選択肢があるらしいのです。それは…

 JR飯田線は中部天竜駅を出るとすぐに天竜川を鉄橋で渡り、対岸にある佐久間駅に到着します。何とこの列車用の鉄橋脇に歩行者用通路(細い!怖い!)があるらしいのです。通路とは言っても、普通の列車鉄橋の脇を歩くようなものです。酔っぱらって歩こうものなら、いや素面(しらふ)であってもちょっと強風が吹いてきたならば、きっと眼下の天竜川へドボン!でしょう。実は後日、この鉄橋を歩いてみたのですが、確かに高所恐怖症の人間としてはほぼ罰ゲーム同様のものではありました。しかし先に述べた国道の危険なトンネルよりは安全度は高いかも知れません。皆さんもここへ行く機会があったらぜひこの鉄橋を歩いてみて下さい(ちょうどその時に地震や強風がこないことを祈ります!)。まぁでも冗談ではなしに、飯田線の列車のうち何本かは中部天竜駅で30分から1時間くらいの通過列車待ちがありますから、その間に徒歩でこの鉄橋を歩き、1駅先の佐久間駅から同じ列車に乗る、なんてことをやってみるのも飯田線ならではの旅計画かも知れません(もちろん僕はやったことあります)。

          

 佐久間駅を過ぎ、さらに佐久間町役場を過ぎると、この辺りが町の中心部であることが実感できます。そして再びトンネル(こちらは歩道があり安全です)を越えると、町並みは途切れて森の中へ。ここからはJR飯田線とはお別れになります。飯田線は佐久間駅からも北上し続け、水窪などを経由して長野県へ。僕はここからは南下して天竜市街へ向かっていきます。四方を山に囲まれ(この表現、よく使いますが決して言いすぎではないのです)ながらも日光はちゃんと差し込み、なかなか気分のいいウォーキングを続けていると…。

 「ププ〜ッ!」と車の警笛の音がしたかと思うと、一台の車が脇に停車。中からいかにも中年って感じのお兄さん(僕もですが…)が顔を出し、「どこまで? 乗せていってあげようか?」 いやー、優しい! その親切さに感謝しながらも、ウォーキングの主旨を説明してお断りしました。そう言えば、第18回の旅行記で紹介した恩師以外にも、ウォーキングの途中に「乗せていってあげようか?」と声をかけてくれた人は3人(今回も含めて)いますが、どれも静岡県での出来事ですねぇ。静岡県民は他県の人よりも優しいのでしょうか?

 優しいかどうかについては統計をとったことはありませんが、静岡県は全国の都道府県でもっとも平均的な県であると言われます。山あり海あり湖あり川あり、都市あり田舎あり観光地あり漁港あり、新幹線あり在来線あり私鉄あり高速道路あり、と一通りすべてのものがそろっています。そこで何かの統計資料を作るときには必ず静岡県がサンプルとして使われることになります。すべてがそろっているということは素敵なことのように思いますが、静岡県としては「何の特徴もない平均的な県」ということであまりよくは思っていないそうです。

 さて車へのお誘いをお断りして歩き続けていると、西渡(にしど)交差点に到着します。三叉路ではあるものの、信号機も設置された大きな分かれ道です(この地域は信号機が設置されているということ=大きな交差点、なのです)。左手は山あいの道を通って水窪(みさくぼ)町へ。右手は引き続き天竜川に沿って天竜市街へ向かいます。もちろん予定通り右の道を選択しましたが、中部天竜駅から来るバスもこの西渡交差点が終点。ここからは新たに天竜浜名湖鉄道の天竜二股駅から来るバスの路線になります。

 右手には天竜川が相変わらずゆったりと流れ(この辺りは「暴れ天竜」の面影は影も形もなくなっています)、高い山から流れてきた清水が激しい勢いで天竜川に流れ込む。大自然とはこのような景色を言うのでしょう。両脇を高い山々に囲まれているのでちょっと閉塞感はありますが、山と川と空しか見えないこの空間! 僕もゆっくりゆっくりと歩を進めていきます。この景観を楽しむように。

 大輪交差点で国道は天竜川の右手に渡り、左手には小さな県道が分岐します。道端にちょっとした休憩所があったので、ここでトイレ(大きい方)をすませました。ウォーキングというのは意外にトイレに困るものなのです。大都市ならば大きな百貨店やコンビニで借りることもできますが、こういう地域はそんなものまったくありませんから。だからトイレの存在を確認した時にちょっとでも「もよおしていた」ら、必ず立ち寄ることにしています(第8回の旅で苦しんだことが生きていますね)。

 大輪交差点で、本来なら橋を渡ってこのまま国道を歩き続けようと思っていたのですが、何とこの国道は前週の大雨で崩落して天竜川になだれ込んでしまい、通行不能! 仕方なく分岐する県道を歩き、対岸からこの国道を眺めました。崩落地点は道路下の地盤がモロに崩れており(もちろん通行止めになっています)、改めて自分が危険な地域を歩いているということを実感できました。

   

 仕方なく(強制的に)歩くことになったこの県道もなかなか味があり、緑色の天竜川の湖面(この辺りは川面というより湖面という感じです)を眺めながらトボトボと歩きました。残念ながら国道が通行止めになっているため、この県道に迂回してくる車が結構あって気を遣いましたが、普段はきっととても素敵なハイキングコースであると思われます。しかし、こちらの県道にはバス停がないため、どこかで対岸の国道に戻らなければなりません。なかなか天竜川には橋がかかってないのですが、瀬尻(せじり)集落の手前にようやく橋を見つけました。

 国道側の瀬尻バス停は意外にも広く、待合室もしっかりしていました。飲み物を買おうと道端の自動販売機に手を伸ばすと…。コイン投入口を大きなクモがふさいでおり、飲み物を買うことはできませんでした。こんなところもやはり大自然を実感させてくれますね(結局少し離れた所にある自動販売機でお茶を買いました)。

   

 バスを待っている間に雨(突然のスコール)が降り始めました。だんだんと激しくなり、今回も傘を持たないウォーキングだったので、あのまま歩き続けていたら…と思うと、バスの中でホッとしていました。先程歩いた西渡交差点で中部天竜駅行きのバスに乗り換え(こちらも待合室はしっかりしていました)、無事に車まで戻ることができました。

 余談ではありますが、西渡から中部天竜まで乗ったバスは(始発から終点まで乗ったにも関わらず)乗客はずっと僕1人でした。おかげで運転手さんともこの地域についていろいろ話をすることができました。また運転手さんの歩んできた人生も聞くことができ(いや、聞かされた、というべきかな!?)、40分くらいではありましたが何だか「徹子の部屋」にいるような感じでした。でも、こういった赤字確実なバス路線のおかげで僕の趣味も成り立っているのですから、感謝、感謝です!

 次回はさらに南下して天竜市街に入ります。まだまだ山は眼前に立ちはだかったままです。


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