第26回 菊川(静岡県小笠郡菊川町)→焼津(静岡県焼津市)

平成11年12月5日 曇り 30.8q 7時間0分

「富士見」考!

 さて今回は久しぶりに出発時点から曇りの天気。雨もいつ降り出してもおかしくないような天気で、ちょっと急ぎ足で歩を進めることになりました。しかもあまり充分に下見をしないまま菊川駅を出発! 不安はいっぱいです。

 前回の旅は、前半が天竜浜名湖鉄道、後半がJR東海道本線と、ほとんど全行程で鉄道と併走していました。そこで今回は少しJRから離れたコースを歩いてみようと決意しました。地図で見る限り、菊川駅を歩き始めてすぐ辺りに右手へ折れる道があり、この道は丘を越えて太平洋岸の方へつながっているように見えます。ただ、この道は県道にも指定されておらず何だか険しそう…。しかも「地図で見る限り」と書いたことからも分かるように、今回に限っては車で下見をしておらず、野性のカンしか頼りになるものはありません。どうしよう…。

 まぁしかし今歩いているJR沿いの道を歩き続けても、この後は金谷(かなや)駅に向けてちょっとした丘になるのだから、それならまだ見ぬコースの方をチャレンジしてみよう! ということになり、目星をつけた辺りから右(地図上では南)へ進路を変えました(実は曲がる交差点すら確信はなかったのです)。

 とりあえずコース自体は正しかったようで、細い道が丘を上っていきます。途中までは民家も点在していましたが、坂を本格的に上り始めると周囲はうっそうと茂る森林のみ。今までもこのような風情の道はたくさん歩いてきましたが、それでも大体川向こうに国道が走っているとか、自然にあふれた道ではあるけれども交通量はまずまずあるとか、そういった道でした。しかし今回のこのコースはただただ丘に向けて道が続いているだけ。しかも自分の歩く音以外、人工の音は何も聞こえない。これはもう本当に聞こえない。耳に入ってくるのは鳥がさえずる声のみ…。熊とか登場したりしないかな…!?

 長く感じたこのような上り坂も実際には4q(約1時間)ほどで終わり、丘の上にやって来ました。この丘は静岡県中南部にある牧之原台地で、こちらも菊川に負けず劣らずのお茶の産地です。それにしても「台地」というより小高い「山」という感じ。東名高速道路を走っていても、この辺りには牧之原サービスエリアがありますが、この前後は高速道路としては破格の急坂になっているので、やはり僕もかなり上ってきたということなのでしょう。

 この台地の上を国道473号線が走っていて、今回のウォーキングは上り坂を上り切った所でこの国道にぶつかります。ここで菊川町から榛原郡榛原町に入ります。この国道473号線は起点が蒲郡市にあります。岡崎市(本宿駅の辺り)を通っていったん設楽町の山奥に入り、さらに山間部を静岡県に抜けて今度は南下。そして牧之原台地を通って御前崎方面が終点になります。始点も終点も太平洋岸なのにぐるっと山間部を廻ってくるという変わったコースを取る国道で、これも国道マニア(そんなのもいるのです)では名の知れた国道です。

 僕はこの国道を横切り、一面茶畑の中を歩き続けていきます。第24回の旅でも茶畑の風景を紹介しましたが、ここはまたすごい。前回の森町の茶畑は平地にあるものだったので、一面茶畑と言えどもその向こうには山々が見えて視界をさえぎっていました。ちょうど箱庭の中に茶畑が広がっているといった感じです。今回の牧之原は台地なので、茶畑の向こう側に視界をさえぎるものは何もありません。つまり茶畑と空のコントラストなのです(残念ながらこの日は曇りなので茶畑と灰色のコントラストでした…)。しかし台地の上というのはこういった風景になるのですね。何だか僕の稚拙な文章では表現できませんが、普通の地域では見られない、台地独特の景観があります。

   

 さっき坂を上った分、今度は下りなければなりません。台地自体はそれほど広いわけではないので、お茶畑を堪能するとすぐに下り坂に入ります。こちらは交通量もそこそこあり(逆に道が狭いので車に気を遣いました)、アッという間に平野部に出てきました。勝間田という地名らしく、勝間田公園という公園(公園というより山一つぶんをけずってアスレチックなどを作ったかなり大々的なものです)がありました。雨が降り出しそうな天気ということもありましたが、人っ子一人姿は見えず、こんな素敵な公園なのにもったいない。この辺りに遊びに来るときにはちょっとした穴場かも知れません。

 もうかなり歩いたような気がしますが、アップダウンがあったために足に疲労がきているだけで実際にはまだ距離はそれほどではありません。しかもJRから離れたコースを選んだので、ゴール予定地はまだまだ先です。勝間田公園を過ぎてもまだ同じようなコースは続き、2時間くらい歩いてようやく太平洋岸に近付いてきました。この地域の太平洋岸には国道150号線という国道が走っていて(御前崎を通っている国道です)、この国道に合流するのが大井川を渡る直前です。「越すに越されぬ大井川」といわれた大井川も今は昔の話で、現在はとても静かな川の上を立派な橋で渡れます。この橋は富士見橋と言い、その名の通りここからは富士山が見えます(もちろん晴れていれば)。この日は曇りなのでまったく見えませんでしたが、後日車で距離測定をした時には非常にキレイに見えました。

 余談ですが、中部地方には「富士見」という名を冠する橋、峠、台地、公園などが多数存在しますが、これらがすべて「富士山を眺められる」と思ったら大間違いです。確かに富士山の眺望からそう付けられたものが多いのは確かですが、中には「富士山が見える(…といいのになぁ)」という命名もかなりあり、キョロキョロすればどこでも富士山が見えるわけではないのです。豊橋市には「富士見台」という地名がありますが、ここは一説によると「富士見たい!」から来た地名だそうで、当然ここから富士山は眺められません。第19回の旅で紹介した「滝の見えない滝見橋」のようなものですかね(スケールはだいぶ違いますが)。ちなみに僕がお薦めするもっとも雄大な富士山が見られる「富士見峠」は、第29回の旅で紹介する富士見峠です。その話はまたそちらで。

 ウォーキングに話は戻りますが、この富士見橋を渡って大井川町に入ると、国道ということもあってか、ずっとずっとまっすぐに伸びる道が続きます。アップダウンも疲れますが、こういった一本道はもっと疲れます(精神的に)。どこまで進んでも何も新しいものが見えてこないのですから、何だか進んでいる感じがしません。

 右手も左手も田園が広がり、地名も大島新田、中根新田、といった○○新田というものが多い(バス停より)。そうこうしているうちにいつの間にか焼津市に入り、左手に焼津駅前商店街が見えてきました。今回は勤務する学校の期末試験の期間中ということもあり、この商店街で生徒たちに「茶アメ」をおみやげに買って、終着地の焼津駅に到着しました。結局雨には降られませんでした(アメは買いましたが…)。

 次回は宇津ノ谷峠を越えて静岡市に到着します。


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