第29回 興津(静岡県清水市)→十島(山梨県南巨摩郡南部町)
平成12年1月9日 晴れ 25.0㎞ 5時間50分
本物の富士見峠
第25回の旅(掛川)からずっと旧東海道に沿って東進して来ましたが、ここからは身延街道を富士川に沿って北進していくことになりました。それにはこんな経緯があります。
興津宿を出て東(東京方面)に進むと、次の宿場は由比になります。ここは桜エビの産地として有名なのですが、前回の旅日記にも書いたとおりこの辺りは「東海道の親不知」と呼ばれ、山が海まで迫ってきて平地がなく、旅人にとってはかなり危険な地域です。…で、この頃の私は(今と違って)まだ多少は「怖いものを知っている」状態の旅人だったので、この「親不知」を避け、富士川沿いに山梨県へ北上する道を選んだというわけです。
ちなみに徒歩でこの地域を通過する場合、小高い丘(というか山)を越える薩埵峠(さったとうげ)を歩くことになります。「薩埵」とは仏教用語で「仏様が万人を助ける」という意味あいであり、ここを通る旅人がこの地形にどれほど悩まされていたか、そしてこの峠がどれほど旅人を救っていたか想像できると思います。この峠は現在も車では通行できません。興味がある人は徒歩で頑張ってみてください。峠からは青い遠州灘と、青い空、そして間近に富士山が眺められ(もちろんこれらは天気がいい日の話です)、絶景らしいです(僕はここを歩いたことはまだありません)。
さてようやく話はウォーキングの方にいきます。興津から山梨県方面に向かう道は国道52号線とナンバリングされています。「富士川に沿って」と前述しましたが、実際に富士川に出会うのはもう少し先です。今回歩く部分ではほとんど富士川は見えません。その代わり、ところどころで雄大な富士山がその姿を見せてくれます。しかもこれが本当に近距離! 真冬はもっとも富士山がきれいに見られる時期で(富士山が美しく冠雪し、しかも空気が澄んでいる)その姿はぞくっとするほどでした。車を運転しているとなかなか富士山にばかり注目していることはできませんが、そこはウォーキングの醍醐味。じっくりと堪能させてもらいました。
特に絶景なのは、山梨県も近くなってきた場所にある富士見峠。第26回の旅で「富士見」という地名について書きましたが、いや、ここは本当の本物! 国道から右へ曲がる交差点があり、車の場合はここで曲がってすぐに車を停めると(交通量は少ないので簡単に停められます)もう目の前に富士山! というより近すぎて視界には富士山しか入らない! 僕は低所恐怖症でもあるので(もちろんそれだけではなくあまりに荘厳だからというのもありますが)もう怖ささえ感じました。今でも時々車でここを通るときには必ずこの峠のポイントに立ち寄り、富士山を眺めて行きます。
だいぶ山深くなってきましたが、ここはまだ清水市(現在は合併されて静岡市)です。ほんの少し芝川町をかすめると、いよいよ山梨県へ足を踏み入れます。駿河(静岡県)と甲斐(山梨県)との県境には小さな橋があり、両方からの地名をとって甲駿橋(こうしゅんばし)と呼ばれています(数少ない信号があるのですぐ分かります)。第19回の旅で愛知県の東栄町から足を踏み入れて以来ずっと歩き続けてきた静岡県に別れを告げ、初めて山梨県に第一歩を踏み出しました。ここは山梨県南巨摩(みなみこま)郡富沢町。
道路の様子はあまり変化しないのですが、ただ1つ大きく視界が変わるのは、ここからは富士山が山の陰に隠れて見えなくなるということです。かと言って美人はいません(意味が分からない人は第27回の旅日記参照)。もうくどいですかね!?
山梨県に入ると今回のゴール地点も近くなります。ほどなく右手から富士川が合流し、いよいよここからは富士川に沿って(逆流して)進んでいくことになります。富士川というのは甲府方面から流れてくる川で、大きな川ではありますが別に富士山から流れ出しているわけではありません。富士川については次回の旅日記で。
富士川にかかる万栄橋を渡ると、富沢町から南部(なんぶ)町へ。そこに富士川とともに走ってきたJR身延線の十島駅があり、ここが今回の終着地点となりました。天竜川沿いと同じく(もう少し開けた感じがあるので、天竜川沿いほど圧迫感はありませんが)、山と大河のコントラストが素敵な地域です。
次回は身延町を越えて、下部温泉郷まで富士川沿いを北上します。