第60回 伊勢八太(三重県一志郡一志町)→伊勢八知(三重県一志郡美杉村)
平成14年3月10日 晴れ 26.1q 6時間40分
猿と混浴!?
さぁいよいよJR名松線の旅の始まりです。今回は第56回の旅と同じく阿漕駅に車を停め、念願の名松線に乗って出発地の伊勢八太駅までやって来ました。今回も下見は充分。こちらも同じく第56回の旅日記で触れたように、雲出川(くもすがわ)という清流に沿って山あいを進むコースを堪能すべく意気揚々と出発していきました。スタートは早朝7時50分。
伊勢八太駅から歩き始めるとすぐに右手に駅が見えてきます。ここはJR名松線の次の駅…と思いきや、これは近鉄線の川合高岡駅でした。昔この辺りが川合村と高岡村の境界に近かったことから命名された駅のようですが、その後この二村が合併されて一志町となってからもこの駅名はそのまま残っています(ちなみにさらにその後、一志町という名前も津市に合併されて消滅してしまいました)。そしてこの駅から南に約150mほどの所にJR名松線の一志駅があります。本当にすぐ近くです。でもJR名松線と近鉄線は併走しているわけではなく、この地点でのみ接近しているだけで両方面にまた別れていきます。まるで双曲線のように…。
さてこの時間帯に歩き始めると、スタートして20分ほどで「大」の方をもよおすことになります(いつものことです)。今回も山道に入ってしまう前にコンビニを見付け、お腹を軽くして本格的にウォーキングに入りました。こちらもすべて順調。しかし僕はまだこの時、この時期にしかいない「敵」に気付いていなかったのです…。
ちょっと小高い丘を越えるといよいよ市街地から離れます。田園を両側に据えた一本道が続き、その途中に非常にひらけた感じの伊勢大井駅。このちょうど正面辺りがスタートからの1200qポストになりました。そしてここでは道路脇の側溝で地元の方々がどぶ掃除をしていて…
「兄ちゃん、散歩?」 気さくにも声をかけてきてくれました。「はい、伊勢奥津まで行きたいんですが…」 一瞬の沈黙。そりゃそうだ、伊勢奥津までは約34q! 「歩くの?」 「ハイ」 「なんで?」 正直この質問が一番困る…。特に大した目的があるわけではないんで…。「歩くの好きなんで」と適当に答え(でも間違ってはいない)、はるか先に見える山に向かって歩を進めていきました。
一志町から白山町に入るとJR名松線の中心駅、家城(いえき)駅に到着します。この駅は名松線では珍しく有人駅で、松阪駅と伊勢奥津駅のほぼ中間地点に当たります。この駅はつい最近まで腕木式信号(電気ではなくて木で作られた板が上下することによって列車に信号を送るもの)というものが使われていて、全国でも非常に有名な(もちろん鉄道ファンの間でですが)駅でした。当時もまだ腕木式信号を見ることができて、今回のウォーキングに素敵な思い出を追添えてくれました。何を隠そう僕も「鉄道ファン」なのです(え?知ってました?)。
JR名松線という路線は、起点の松阪駅から「松」という一字を取っていますが、もう一字の「名」とはどこから来ているのでしょう? 沿線に「名」のつく駅はないし、近辺にもないし、まさか遠くの「名古屋」からとってきたわけでもないだろうし…。そこで調べてみると、この「名」という字は「名張」からきているということが分かりました。しかし地図でよく見ると、名張は名松線からはかなり遠くにあります。どうやら名松線は計画段階では現在の終点の「伊勢奥津」ではなく、もっと延伸して名張までいく予定だったらしいのです。しかし、近鉄(上で紹介した路線です)が先に松阪と名張をつないでしまい、JR(当時は国鉄ですが)は名張まで路線を延ばす意味を失い、途中の伊勢奥津駅で線路をストップしてしまったのです。いつの時代も「国はもたもた、民は素早く」という仕事ぶりなんですね。
さらに美杉村に入ると、伊勢鎌倉駅(秘境駅ランキングに入るのではないでしょうか)など味のある駅が続き、周囲の静けさも増してきます。素敵な村だなぁ、美杉村って。ん!? 杉!? まさか、この周囲に生えている森林は杉では…!? 今は3月。
気付いた頃にはもう遅く、鼻がムズムズ、目はチカチカ。今回も前回とは別の意味で目薬を持参していて助かりましたが、3月・4月に山を歩く時には「花粉」にも気を付けないといけないんですね…。
山あいから急にパッと視界が開けると、そこは「火の谷温泉」で有名な伊勢八知の集落です。数軒ではありますがホテル・旅館も建ち並び、左手の雲出川の向こうには名松線の線路とともに火の谷温泉が。フッと右手を見ると、小さな畑に全部で7匹の猿がちょこんと座り、何やらムシャムシャと食べていました。猿は時には凶暴になりますが、とりあえず何か食べているということは空腹ではないということなので、安心して近付いていき間近で一緒に座って一服しました。ここ火の谷温泉は露天風呂もあるので、季節・時間帯によっては猿と「混浴」でもできそうな感じです。
それにしても、この火の谷温泉郷は本当に素敵な所です。名古屋からのリゾート客が客層の中心であると聞きましたが、愛知からでも日帰りで充分楽しめそうな距離なので、ぜひ一度秘湯を楽しみにきてみたいなぁと思っています(しかしその後まだ一度もここの温泉に入りに来てはいません)。
今回はこの集落の中心にある伊勢八知駅を終着地とし、次回は伊勢奥津までの残りの区間を歩きます。