第66回 石山(滋賀県大津市)→出町柳(京都府京都市左京区)

平成14年11月3日 晴れ 25.6q 6時間50分

知るも知らぬも逢坂の関

 近江の石山寺を後にすると、京都はもう目の前のような気がします。何と言っても大津市と京都市は県庁所在地同士でありながら接しています(他には山形市と仙台市も県庁所在地同士で接しています)。JR東海道本線の駅を見ても、大津駅と京都駅は、間に山科駅を挟んで2駅分の距離となっています。

 大津市は滋賀県の中でもっとも人口が多いわけではありません。もともと彦根市の方が大きな都市なのです。それでも大津市が県庁所在地になった(というより彦根市が県庁所在地になれなかった)理由は、明治維新期の戊辰戦争(江戸幕府軍vs明治政府軍)で彦根市が幕府軍に味方したからという一件によります。要は彦根市が干されているのは明治政府からの報復なのです。すでに150年ほども前の話ですが、今もって彦根市が県庁所在地になれていないという事を考えると、歴史って偉大だなぁと思いますね。

 膳所(ぜぜ)という難読地名の地区を通り過ぎると、道(国道1号線)は急激に狭くなり、三方向(両側+前方)に山が迫ってきます。その合間をぬって琵琶湖も顔を出しますが、何やら閉塞感のあふれる場所に来てしまいました。ここは、百人一首でもっとも有名な(!?)10番、蝉丸(せみまる)の歌「これやこの行くも帰るも別れては知るも知らぬも逢坂の関」に読まれている逢坂山です。ここを越えるとすなわち京都なのです。

 かつて関所があったと言われているだけのことはあるもので、まさに一本道。しかも道端に時々ある民家は、昔ながらの江戸屋敷のような立派なたたずまいで、この地域が必死で歴史の流れを止めて踏ん張っているということがよく伝わってきました。ただ眼下には鉄道が走り(恐らく京阪電鉄だと思われます)、頭上には名神高速道路が山と山の間からほんの少しだけ顔を出し、その昔、逢坂山を往来した旅人たちの話し声の代わりに、文明の音が耳に聞こえてきました。でもその分を差し引いても、京都が近付いてきたなぁと思わせるには充分な雰囲気をもつ逢坂山でした。歩道も付いていますからぜひ歩いてみることをお薦めします。京阪電鉄の大谷駅から追分駅まで、1駅分を歩くだけでも充分に逢坂山の雰囲気を味わえます。

 逢坂山を越えるといよいよ京都府です。すぐに京都東インターチェンジにぶつかるここは山科区。右に曲がっていくとJRの山科駅に到着します。実は逢坂山の辺りから「小」の方を我慢していたので(さすがに江戸屋敷でトイレを借りることはできませんでした…)、ここでマクドナルドに入りスッキリしてきました。ところで京都府は文化遺産も多く街全体が文化財であるということから、京都市内のマクドナルドはすべて赤色ではなく景観を壊さないように茶色い看板にしてあるということを聞いたことがありますが、本当に「すべて」なのでしょうか。ま、確かにここのマクドナルドは茶色い看板でした。しかしこういった事はマクドナルドだけがやってもダメで、派手なホテルのネオンサインとかも何とかしてほしいですよね。

 僕の中では「やっと京都に到着した!」とホッとしていたのですが、ちょっと様子がおかしい。古都の街並みは全然目に入って来ないし、その代わりに何だかまた目の前に山が迫ってきた。えっ、もう1つ山があるの??

 後でかつての先輩社会教師に聞いたところでは「羽田君、大津から京都ってのは、近いってイメージがあるだろうけど山2つ越えないと行けないんだよ〜」ということでした(ちなみにその方も旅好きで、さらにかつて京都に住んでいたという経歴を持っています)。結局「京都市」とは言っても最初に足を踏み入れた「山科区」は、京都市内の「陸の孤島」みたいになっていて山を越えないと「東山区」に入れないんですね。

 東山トンネル(ここは歩道が別に設置されていて安全だけど人の気配がなくてちょっと怖い)を越えると、ようやく東山区に入ります。右手に清水寺が見え、坂を下ると左手に京都駅。ここはもう下京区になります。

 念願の東本願寺参拝の前に、ここでいっちょう腹ごしらえをしました。道端にある「大坂屋(京都なのに)」で卵とじ丼を食べ、満腹の状態でいよいよ本願寺参拝。担任の生徒たちが一人残らず志望校に受かりますようにと祈念し、伊勢神宮から続いた今回の「参拝の旅」はとりあえず目的を達成する事ができました。ここからは帰途に着くことになります。

 この日は烏丸通から京都市役所前を通り、川端通から京阪電鉄の出町柳(でまちやなぎ)駅を終着地としました。出町柳は鴨川沿いの非常に「京都」を感じられる場所で、この季節は特に素晴らしい眺めです(夏は川の湿気で大量の虫が発生してあまり過ごしやすくはないらしい)。高校時代の同級生が京都大学の農学部に在籍していた頃、この出町柳の駅のすぐ隣に下宿していたので一度遊びに来たことがあります。他にも立命館大学に通っていた同級生もいたので、京都は学生時代に本当によく訪れました。ウロウロ歩けばすぐに寺院に当たる、と言われるほどの街で、僕のような神社仏閣を見て回るのが大好きな人間にとっては何日いても飽きません。清水寺、小学校の修学旅行以来行ってないなぁ…。それより何より僕は京都の寺社では銀閣・仁和寺(にんなじ)・竜安寺(りょうあんじ)といった派手さのない寺が好きだなぁ…。金閣ももちろんいいし…。あっ、二条城も…。京都は旅人の心をくすぐります。

 次回は大原から途中峠を越え、琵琶湖西岸に下りていきます。



第65回へ←   →第67回へ

伊勢神宮・東本願寺参拝の旅トップへ戻る
旅のページトップへ戻る