第67回 出町柳(京都府京都市左京区)→志賀(滋賀県滋賀郡志賀町)
平成14年12月8日 雨時々曇り 31.5㎞ 7時間50分
ここも左京区!
前回のウォーキングで念願の京都府に入り、今回の旅の大目的である本願寺参拝を済ませました。さぁ今回からは帰途につくことになります。
この頃は僕の体力ももっとも充実していた頃で、今回の第67回から第71回まで「5回連続30㎞越え」という前代未聞(とは言ってもこんな事誰もやったことないだろうから「前代」なんてないですけど)の長距離歩行となりました。紅白歌合戦で言えば、小林幸子さんがもっとも大がかりな衣装を身にまとっていた頃、と思っていただければいいでしょう。
出町柳駅を出発するとすぐにスタートからの1350㎞ポストになります。まだここは鴨川の岸辺です。今回はしばらくの間、この鴨川に沿って上流へ歩いていくことになります。鴨川は京都の東部を流れる代表的な川で通称「東川」とも呼ばれますが、この鴨川という名称は下流部での名称です。中流で高野川と合流するまでは、加茂川(または賀茂川)と表記されます。まぁどちらにしても口に出せば「かもがわ」となるんですけどね。
京都府からまずは滋賀県に戻るのに、前回来た道を引き返すことはせず、京都市の北部を通って琵琶湖西岸に抜けることを計画しました。京都の地理に詳しい方ならおわかりと思いますが、大原三千院・寂光院といった京都府の中心地からはかなり離れた隠れた名所を擁する地区になります。ここは観光よりも一人歩きが似合う場所です(と僕は勝手に思っています)。
しかもこの日はからっと晴れた天気ではない。どちらかと言えば「悪天候」に分類されるような日で、傘をさしつつ大原をとぼとぼと歩きました。市街地と呼べる場所までは歩道もあるのですが、このルートは基本的に「人が歩く」ことは想定されていないらしくほとんどの箇所において歩道がありません。しかも道端には(というより道の中央でしたが)サルの家族が団らん中で、僕が近付いていってもまったく動じませんでした。邪魔をしては悪いので、軽くお辞儀をして通り過ぎていきました。
さて雨のそぼ降る大原三千院は非常に神秘めいていて、ここが「奥京都(そんな言い方があるのかどうかは知りませんが)」であることを存分に感じさせてくれます。観光客がいないわけではありませんが、京都中心部の観光地とは違い「ツウ」な感じのお客(つまりはお年を召された方ってことです)が大半を占めています。ここは晴れた日に来る場所ではないような気がしますね。大原には雨がよく似合う。勝手な思いこみなのかも知れませんが、後年、高校の同級生たちと大原三千院を訪ねた時にもやはり雨だったせいか、今でも僕の中では「大原=雨」なのです。
大原を過ぎるといよいよ県境が近付いてきます。観光客はもちろん視界から消え、車の通りも極端に少なくなります。県境にある峠は途中峠と言い、ここでも京都府と大津市は接しています。しかし周りを見るとどう見ても都道府県庁所在地同士の接する場所とは思えない。しかも看板標識を見るとここも「京都市左京区」らしい。左京区って広いんですね。ちなみに今回の旅の出発地となった出町柳も左京区にあります。
途中峠は自動車専用の途中トンネルができていて、もちろん旅人である僕はトンネルは通れないので横にある細い旧道を歩きました。トンネルができてほとんど人通りはなくなってしまったと思われる旧道にも民家が数件あり、僕の知らない時間にもここで同じ時を刻んで生活している人がいるんだなぁと思いました。
さぁここからは琵琶湖西岸に向かって下っていきます。相変わらず歩いているのは大津市です。思えば第65回の旅で、信楽高原から歩いて他界した鹿を見付けたのも大津市でした。大津市って広い上に、大半がこのような山あいなんでしょうか。県庁所在地ですから「大都会」と思っていましたが、それは琵琶湖南岸の一部だけなんですかね。
途中峠を越えてからのこの県道も実に静かです。京都の大原もそうでしたが、ここも負けず劣らず人の気配が少ない。正確に言うと民家はありますから生活臭はあるのですが、空気がとにかく新鮮で清らかです。比良山系から吹き付ける強風で空中の不純物がすべて洗われてしまうのでしょうか。深呼吸をするだけで何だか身体の中が洗浄されていく気がします。まさにこころの洗濯!
琵琶湖に近付いたところでJR湖西線にぶつかります。湖西線は「こさいせん」ではなく「こせいせん」と読み、前回紹介した東海道本線の山科駅から分岐して琵琶湖西岸を走り、近江塩津駅で北陸本線に合流します。彦根・米原などを通らずに関西から北陸に向かう時の最短ルートになりますが、冬は豪雪地帯としても知られ交通麻痺は頻繁にに起こる地域です。今回途中峠から下りてきてぶつかったのはこの湖西線の和邇(わに)駅。別に爬虫類のワニとは関係がないのでしょうが、駅前の大きなスーパーにはやはり大きなワニのキャラクターが描いてありました。そんな単純な…。
きりがいいのでここで終着にしようかとも思いましたが、体力は意外にも残っており雨も上がったようなので、もう少し歩くことにしました。せっかくなのでこのまま国道を横切り一気に琵琶湖沿岸まで出ました。うち寄せる波を眺めていると、さっきまで山の奥深くを歩いていたのがうそのように感じられます。この雄大な光景を見ると、琵琶湖は「湖」ではなく「海」と言ってもいいでしょう。日本地理を教える時に「海に面していない都道府県は8つ」と教えます。その中に滋賀県はもちろん含まれているのですが、こうやって琵琶湖の湖面を眺めていると、ここが「海無し県」であるということが信じられなくなってきます。
この辺りの琵琶湖沿岸は国道が林の向こうを走っているということもあり、いくつかの大きな会社の研修センターや保養地があります。この季節はもちろんそれらは閉まってしまっていますが、そんな中をもうちょっと歩いて、今回は湖西線の志賀駅を終着地としました。滋賀県滋賀郡志賀町は、口に出せば「しが県しが郡しが町」とすべて同じに聞こえますが、町の名前だけが「志賀」という異なった表記になります。
次回は琵琶湖西岸を北上し、北岸を静かな湖北地方を目指します。