第69回 近江今津(滋賀県高島郡今津町)→木之本(滋賀県伊香郡木之本町)
平成15年2月2日 雪時々曇り 31.5q 7時間0分
遺体の上がる湖
今回は2月の初めのウォーキングですが、実は直前に大きな事件がありました。1月末に祖母が他界したのです。そこで今回のウォーキングはどうしようか(せめて四十九日が終わるまで待とうか)と迷いましたが、家にいても何かがあるわけでもないので結局歩きに来ました。空からは雪がチラチラ…。
前回ウォーキング中にお腹がすいて困ったので、今回はパンをコートのポケットに入れて出発しました。今回のコースもほとんど店は無いのです。
予定しているコースは琵琶湖の北岸をほぼ忠実にたどるコースです。北岸にはトンネルでショートカットするバイパス並の道路もあるのですが、とにかく前半はひたすら忠実に琵琶湖の岸辺を歩くことにしました。その方が情緒があるかな、と(結果的にこの選択は大正解でした)。
歩き始めるとすぐにマキノ町に入ります。この町は全国で初めての「カタカナ市町村」です。今は結構カタカナ地名が出現してきましたが、当時はそれなりに話題になりました(同じくカタカナ市町村である北海道のニセコ町とは姉妹市町村です)。北端にある「マキノ高原スキー場」から名付けられた名前であるらしいです。JR湖西線にもマキノ駅があります。
雪は激しさを増してきて、傘を差さなければ歩けないくらいになってしまいました。早くもお腹がすいてきて、ポケットのパンを口にしながら雪の琵琶湖岸をテクテクと歩き、いよいよ琵琶湖の最北端に到達です。
前回も書きましたが、琵琶湖はその南岸と北岸では表情をまったく変える湖です。南岸は大津・守山・栗東・彦根という「にぎやかな都市」が連なっていますが、北岸は本当にひっそりしています。もうこれは恐ろしいくらいの静寂。琵琶湖の北岸には恐ろしい言い伝えもたくさん残っていて、夕方から夜にかけてはよく火の玉が飛ぶらしい。それくらい不気味なのです。まぁその分、情緒はありますが。
長浜市に属しますが、琵琶湖の北部に浮かぶ竹生島(ちくぶじま)という島があります。島には神社や土産物屋がありますが、そこの従業員はすべてフェリーで通勤しているため、竹生島自体は無人島です。島はフェリーで30〜40分くらいの近さにあり、琵琶湖の北岸からでもきれいに見える島ですが、この島と岬の間の海底には縄文時代の遺跡が眠っているらしい。この海底は今でも冷たい清水がわき出ているらしく(遺跡と関係があるのかどうかは分かりません)、その昔、琵琶湖北岸に身を投げた兵士たちの遺体は、いつまで経っても腐ることなく保存され、何かの拍子に浮いてきてもほとんど生前の姿形のままで湖面に出てくるらしいのです。これだけ聞いてもあまり気持ちのいい話ではないですよね…。
他にもこの辺りは、関ヶ原の戦いで負けた兵士たちがここまで逃げのびてきて琵琶湖に飛び込んだり、近隣の大学のボート部のボートが難破して死者が出たりと、今昔を問わず様々な事件が起こっています。夜には亡霊兵士が舟に乗ってさまよっているとか…。僕はもちろん夜には琵琶湖北岸には絶対に近付きません。
北岸の細い道を歩き始めると、すぐに琵琶湖八景に数えられている海津大崎(かいつおおさき)に到着します。春には桜の美しい場所だとか。しかし冬は冬でいい味を出しています。何より琵琶湖から1〜2mの場所を歩き続けられるのが素晴らしい。やはりこの道を歩くことにして良かった! 雪も小降りになってきました。
道は一本道なので迷うことはなく、いつの間にかマキノ町から西浅井(にしあざい)町に入っています。いくつかの別荘やホテルがちょこちょことあるだけで、民家はもうまったく無し。湖は右足のすぐ脇まで来ています。ようやく北岸の中間地、大浦に到着しました。ここで道は二手に分かれます。
右を選ぶと、このまま琵琶湖岸を進みます。左を選ぶと、トンネルを擁したショートカットバイパスに合流できます。本当なら右を選んで歩きたいのですが、ここからの岸辺は「自動車道」という名称になっており、これまでと違って交通量が急増することが予測されたため、左へ曲がりバイパスを歩くことにしました。
バイパスと合流する手前にJR湖西線の永原(ながはら)駅があります。さっき通ってきたマキノ駅と、北陸本線に合流する近江塩津駅との間にある小駅です。実はこの駅、非常に列車の運行本数が少ない。というのも湖西線の列車はほとんどがこの駅止まりで、一区間先の近江塩津駅まで行く列車は本当に少ない(一日に数本だと思います)。だから湖西線を通って北陸本線に乗り換えるにはかなり時刻表とにらめっこをする必要があります。要は、「北陸本線に行くなら、湖西線じゃなくて東海道本線で米原経由で行けよ」というJRからのメッセージなのでしょうかね。
さて無事にバイパスに合流してトンネルに入ろうかなぁという手前で、ポケットの携帯電話が鳴りました。誰かなと思って出てみると…。何とこの日に大学入試の推薦試験に出かけている担任の生徒からでした。
「先生、今からの面接で何を話せばいいか、不安になってきた…」と泣きそうな声。あんなに練習したんだから、ドシッと構えていなさい、と激励し、ちょっとだけ話をして電話を切りました(ちなみにこの子はちゃんと合格しました)。
バイパスは思ったより歩きやすく(とにかく歩道がメチャメチャ広かった)、亡霊兵士に出会うこともなく無事に琵琶湖の北東部に到着しました。大きな国道との交差点にコンビニがあり(このウォーキングで初めて出会ったコンビニでした)、昼食のおにぎりを買って、そこの駐車場に座り込んで食べました。雪ももう完全に止んでいました。
目的の木之本駅まではあと少し。昼食をとり終わって歩き始めること十数分。何だかさっきまでと感覚が違うなぁと思い考えてみると…
「しまった、さっきのコンビニに傘を忘れてきた!!」 そう、食べるときに傘をコンビニの壁に立てかけたまま置いてきてしまったのです。取りに戻るにはちょっと距離がありすぎる…。まぁ今日はこのままもう雪は降らないだろう、ということで結局取りには戻りませんでした。今回の旅の前半であんなにお世話になった傘なのに、置き去りにしてきてごめんなさい…。この場を借りて傘に謝ります。
木之本町に入ると国道は琵琶湖沿岸から離れてしまうので、ここらで琵琶湖とはお別れになります。前々回からず〜っと僕の右側にあり続けた琵琶湖に最後の別れを告げて木之本駅に向かい、今回も30qを越えた琵琶湖北岸の旅を終了しました。
次回は、伊吹山のふもとを歩いて岐阜県に戻り、垂井に到着します。