第84回 横沢(静岡県静岡市)→井川(静岡県静岡市)
平成15年11月14日 晴れ 25.2㎞ 6時間10分
静岡市の最奥の果て
今回歩くコースの前半はまさに密林です。もう民家はまったくありません(ちなみに民家に関しては、今日のコースの後半にもありません)。歩き始める横沢バス停は路線の終着。一日に2,3本は横沢を超えて井川まで行くバスもありますが、それは朝と夕方の時間帯に限られ、ほぼ「走っていない」も同然です。
そこで今回は車をだいぶ離れた掛川駅に置き、まずはJR東海道本線で静岡駅に向かいました。さらに、静岡駅に隣接するバスターミナルから横沢行きのバスに乗り、揺られること1時間半(料金は約1200円)、ようやく山奥の横沢バス停に着きました(当然のように乗客は途中から僕1人でした)。
今日も運良くクマは見当たらず、バス停を出発していよいよ坂を上り始めました。5分ほど歩くと道が少しだけ広くなっており、先ほど乗ってきたバスが一生懸命転回していました。ちなみに運転手さんには今回のウォーキングについてバスの中でお話ししてきたので、軽く手を振ってくれました。普通なら奇異の目で見られてもおかしくないですけどね。
さぁバスが見えなくなるといよいよ周囲には誰もいません。見えるのは緑の木々ばかり。花粉が飛ぶ時期でもないし、虫がいる時期でもないし、寒さに凍える時期でもないし、一番いい時期にこのコースに差し掛かったなぁと実感しながらウォーキングを楽しみました。
前半のコースの見所は竜吟滝。歩いているコースのはるか下の方にちらっと見えるだけの滝ですが、滝の音が素晴らしい。「竜吟滝」というだけのことはあります。この大自然の景観と、鳥のさえずる声にあいまって、「日本にもまだこんな秋の空気が残っているんだなぁ」と思いました。はるか遠くの方でなんだか工事をしているブルドーザーの音がかすかに聞こえてくるのも、この静かさを強調してくれています。
しばらく進むと、上空の青空も見えないほどに林が広がってきて、昼とは言っても薄暗くなります。後ろからバスが追い抜いていきました。先述した一日数本のバスでしょう。こんなところを歩いている僕を見て、運転手さん(とガイドさん)はどのように思ったでしょうね…!?
何回か道はくねくねと曲がり、いよいよ峠に差し掛かります。名称は…やっぱり静岡県だなぁ…富士見峠! そしてやはり峠から富士山は見えない!! まぁでも峠に行くまでの道筋からちらっと富士山が見えたので、あえて今回は糾弾はしませんが。
ここの富士見峠はしかし、富士山に勝るとも劣らない南アルプスの眺望が望めます。駐車場もあり、この日はどこかの個人農家のトラックが自家製ハチミツを売っていました。バス停も設置されており、今回のコースの中では唯一ホッとできる地点だと思います。僕はハチミツは大好きですが、下手に甘いものをなめるとよけいに喉が乾いてしまうことが懸念されるので、山々だけ眺めながら下りの道に入りました。さぁここから今回のコースも後半です。
風景はがらっと変わり、眼下にはきれいな井川湖(井川ダム)が見下ろせます。大井川の源流となるダムで、まさに静岡県の最奥の果てと言ってもいいでしょう。下り坂はやはり曲がりくねりながらこの井川ダムに向かっていきます。後で計って分かったことですが、ここから井川ダムまでの道のりは約14㎞ありました。しかし目的地が見えているというのは心強いですね。14㎞もあるなんて歩いていても全然感じませんでした。そしてこの心地よい下り坂の途中が、スタートからの1800㎞ポストになりました。
下っている途中で時刻は午後1時をまわり、ちょっと空腹を感じていた頃、タイミングが良すぎるほどに道ばたにひょっこりと料理店が現れました。こんなところになぜ店が?? しかもこんなタイミングで!! 「注文が多かったらどうしよう!?」とか思いながらも引かれるように入店して行きました。結果としては、「山猫軒」ではなく人間がやっていて、注文も特になく、もちろん僕が食べられることもなく、きちんとおいしい料理を出してもらえました。
満腹になり眠気も出てきた頃、午前中に僕を抜き去っていったバスが前方から戻ってきて、再び僕とすれ違いました。さすがに運転手さんもガイドさんも僕の姿を見て驚いていました。まぁこんな峠道を延々と一日かけて歩いてくる人間なんて普通はいませんからね。でも世の中にはこういう旅人もいるんですよ…。
井川ダムのダム堰の上を通ると、そこには静かに井川駅が待っていてくれました。東海道本線の金谷駅から伸びてくる大井川鉄道の終着駅です。到着したのは午後3時20分。実は予定より少し遅くなり、後半はちょっと急いでいたのでした。というのもこの井川駅、最終電車が午後3時45分(当時)!! これを逃すと帰れなくなるので、間に合って良かったぁ、といった感じでした。第77回で磐田駅に到着して以来、久しぶりに電車駅への到着となりました。
井川駅から大井川鉄道井川線に揺られること1時間半。ここでようやく大井川鉄道もほぼ真ん中にあたる千頭駅に到着。夕方になり日が暮れて寒くなり、車掌さんが電車の中でストーブをたいてくれました。千頭から乗り換えをしてさらに2時間、金谷に到着。ここから掛川駅まで東海道本線に揺られやっと車までたどり着きました。疲れたけど憧れの大井川鉄道にも乗り通せたし、いい旅だったぁ!! この日は、今でも僕の中のウォーキングコース・ベスト3に入るコースです。
次回からは大井川鉄道に沿って金谷に向かって南下します。